[2023/4/10公開]
こんな人におすすめ
射出成形工場の作業指導のポイントが知りたい
・指導しているつもりだけど、上手く伝わらない
・若手の育成方法が知りたい
ものづくりの根幹は、人である。
射出成形工場では、さまざまな機械・装置が稼働している。これらの操作や管理をするのは人であるため、いくら機械やソフトウェアが進化したからといっても、人の指導は継続的に進めていくべき課題である。
射出成形工場向けの作業指導、育成の基本とポイントを解説していく。
作業指導の基本
(1)目的を明確にする
なぜ作業を身につけなければならないかを理解させることが基本である。
目的がわかっていない状態は、どこにゴールがあるか知らされずにスタートするマラソンのようなものである。
いつまで経ってもゴールにたどり着けないし、ペースを間違えば、途中棄権してしまう。
目的がはっきりしているからこそ、達成するために何をすべきかが決まってくる。
目的の明確化に役立つ「SMARTゴール」というフレームワークを紹介する。
・Specific(具体的)
・Measurable(数値化できる)
・Achievable(達成可能な)
・Relativly(関連のある)
・Time-bound(時間の制約がある)
の5つの頭文字で構成されている。
この5つの要素を組み込むことが、良い目的とされている。
しっかりと目的を伝えることで、作業者は勘所を理解し、自発的に行動するようになる。
一方で目的を伝えなければ、作業者はいつまで経っても指示待ち状態である。
(2)身につけて欲しい作業レベルと、現状の差を意識する
人それぞれ作業に対する知識や経験が異なるので、その人の習熟度や置かれている現状を考慮するべきである。
身につけて欲しいレベルと現状の差を元に、指導量や指導速度を決めていく。
焦って色々と詰め込もうとしても、理解を超える以上は習得ができないため、段階的に、習熟度の確認をしていくべきである。
定期的に自己評価をさせ、指導者の評価とすり合わせることで、双方の認識を共有するとよい。
作業指導のポイント
(1)第一は、危険なこと、絶対にしてはいけないことを教える
どんな作業指導にも共通している一番の重要ポイントは、危険なこと、事故が起こること、お客さまからの信頼を欠くことなどの絶対にしてはいけないことを先に教えることである。
射出成形工場では、労働災害のリスク(巻き込まれ、転倒転落、火災など)や、お客さまからの品質要求(クリーンルーム成形の管理、原料ロット管理、有機溶剤使用の有無など)は、周知徹底が基本である。
口頭で伝えるのは印象に残らなかったり、指導者によって強調のバラツキがあるので、写真やリストを用いて理解度を上げることが効果的である。
(2)やってみせて、やらせてみる、その後確認する
どんな作業も、「やってみせて、やらせてみて、その後確認する」の順で進めていくべきである。
射出成形のものづくりは、どの工場においても、射出成形機と金型を使用してプラスチック成形品を作るという大枠は共通である。
しかし、どの業界(自働車、家電、建材、医療、雑貨など)の仕事なのか、どんな品質レベルを要求されているかによって大きく異なるものである。
そのため、自分では理解しているつもりの作業でも、その会社、その部署によって作業のやり方は違う。
作業指導する際は、経験者だからと言って指導を省くことなく、自社のやり方をしっかりと教えることが重要である。
また、教えたとおり作業をしているか、フォローアップを欠かさぬようにすべきである。
射出成形工場における作業指導ケース
(1)ライン作業者や、検査員への指導
・ライン作業者への指導ポイント
射出成形工場では、技術者が金型交換や、成形条件の調整を行い、量産中のライン作業は、ライン作業者が担当する。
射出成形や金型構造の知識がある技術者ならば、成形品を見た段階で、発生しやすい不良の種類や、発生しやすい場所の当たりが付けられるが、ライン作業者は、そういった専門的なノウハウは持っていない。
そのため、ライン作業者への指導は、ポイントを絞ることが望ましい。
技術的な話は抜きにして、外観検査のポイントや、1サイクル内で作業を完結するためのコツ、梱包の手順など、決められたルールを抜け漏れなく指導するべきである。
また、わからないことや、気付いたことがある時に、誰に相談すればよいかを決めておくべきだ。
・検査員への指導ポイント
射出成形工場には、ラインについて作業をするライン作業者以外に、検査員と呼ばれる人がいる。
こちらは、成形ラインで仮梱包した成形品を別室で検査する仕事を担当している。
製品受け箱に打ち落とした成形品の検査や、特に外観品質の厳しい成形品などが対象である。
これらの検査で注意したいポイントは、検査時間管理である。
品質レベルは決まっているので、合否判定の指導は可能であるが、検査時間が人によってバラツキがある。
検査の目的は、成形品の品質合否であるのでしっかり検査することが基本だが、検査の見逃しを気にするあまり、時間をたくさんかけてしまいがちである。
こういったケースでは、1個当たりの検査時間の目安を設定しておくことが有効である。
(2)若手技術者の作業指導や育成
・技術+管理術
射出成形工場の技術者は、多能工である。射出成形、金型のスキル、機械メンテナンス、安全管理、生産管理などさまざまな業務を行う。
若手技術者への指導の主軸は、ものづくりの技術力アップであり、こちらは必須である。
これらの射出成形スキルは、職場のベテランからOJTを通して学び、ISOや安全衛生、法令などは、外部セミナーや講習会を利用したOFF-JTが有効である。
一方で、作れば売れる時代から、モノ余りの時代になり、さらに働き手が減少している現代において、より効率的に生産するための管理術が必要になっている。
ITやデジタルを活用して、煩雑さを整え、重複するムダや、アナログな業務を改善していくことがポイントであるため、若手技術者には、デジタル活用の学びの機会を作るべきである。
工場のデジタル化は、「何から始めたらよいのかが悩みどころ」であるので、帳票類のペーパーレス化や、タブレット導入など、小さく始められることから学び始めると良い。
・自ら考え行動する力
基礎的な業務の習得に並行して、自ら考え行動する力を養うことがポイントである。
1日を通して業務を見ると、マニュアルのない作業はたくさんある。
技術者として工程を俯瞰し、マニュアルやルールが適切でない時は更新し、ミスや抜け漏れが起こらないような仕組み作りを意識させるべきである。
技術者の育成過程で注意したいことは、目的(やるべきこと)と理想(あるべき姿、状態)をしっかり教えておくことである。
良かれと思って改善活動をしているつもりでも、曖昧な解釈や感情的な主観で間違った判断をしてしまうことがある。
このような時は、チャレンジは否定せず、考えに至った経緯をヒアリングして、より良い施策を考えさせると良い。
目標設定のポイント
「習うより慣れよ」という格言のとおり、実務の経験はスキルを飛躍的にUPさせる。
若手技術者の作業指導や育成する時は、少し高い目標にチャレンジさせることが重要である。初めから完璧を目指すのでなく、80点で構わないので、期間を決めて報告させる。
期間を決めることで、逆算して成果を上げる力が養われる。
まとめ
射出成形工場における作業指導の基本とポイントを解説してきた。
作業指導を成功させるには、「SMARTゴール」などのフレームワークを使って、目的を上手く分解することがポイントになる。
作業指導や人材育成は根気がいるので、焦らず一人ひとりに合った内容と期間を決めて進めていくことが重要である。