製造業において、利益を上げるには、効率UPが求められます。
しかし、効率がUPして安全が損なわれては、結果として収益は上がりません。
製造業では安全が全てに優先します。
今回は、射出成形工場で起こりやすい事故、怪我と安全対策を解説します。
安全対策のポイント
製造業は、品質、コスト、納期を守ることで、売上が得られ、より効率的に製造することで、利益が増加します。
一方で、利益を追い求めすぎると、安全が損なわれ、事故や怪我が発生しやすくなります。
つまり、品質、コスト、納期にプラスして「安全・モラル」がなければ、利益は約束されません。
工場には、色々な考え方、生まれ育った環境や国籍、年齢や性別など異なるさまざまな人が働いています。昨今の先行きの見えない状況下において、少ロット生産・短納期による、長時間拘束、過剰労働が常体化しない様に、労働環境を管理し、 安全を確保しなければなりません。
安全な環境を作るには、守るべきルール、決まった作業工程、行動指針など工場全体が一枚岩にならなくてはなりません。
安全の基本は、以下の通りです。
- 自分の身は、自分で守る。
- 不安全行動をしている人を見たら注意する。
- 安全は、全員で作り上げるものである。
射出成形工場で起こりやすい労働災害
製造業は、その性質上、機械や設備を稼働する業態です。自ずと、機械、設備にまつわる事故、怪我がその多くの割合を占めます。
まず、製造業において、労働災害の発生状況は下のデータの通りです。
上位3位は、被害の大小はさまざまではありますが、一定数の死亡等の重大事故が発生しています。
【令和2年度 製造業 死傷災害発生状況】
1位 はさまれ・巻き込まれ 6,209件(24.1%)
2位 転倒 5,094件(19.8%)
3位 墜落・転落 2,943件(11.4%)
(厚労省HP 業種、事故の型別死傷災害発生状況(令和2年)より参照)
この統計データの通り、射出成形工場においても危険が潜んでいます。
以下に安全対策を解説します。
① はさまれ・巻き込まれ
射出成形工場においても、はさまれ・巻き込まれの労働災害はとても多い。
射出成形機をはじめ、取り出し機、ベルトコンベア、粉砕機など、
電動や油圧可動の機械が多く、機械の知識が少ない新人作業者、
作業に慣れてきて手抜きをする中級者がその災害の対象となることが多い。
特に気をつけるべき事例と対策下記に解説します。
(ⅰ)射出成形機
基本的に、射出成形機の可動部は、業界の自主規制や法令に基づいてセンサー等の
安全装置が複数設けられており手足・身体がその動作範囲内に侵入した際に作動停止するようになっています。
安全扉が開いた状態では、基本的に成形機は可動しない構造になっています。
しかし、可動していない成形機でもはさまれ・巻き込まれは起こる可能性があり得ます。
事例1 | 金型交換時、金型と成形機に手や身体を挟む。 |
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対策 |
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事例2 | 古い成形機は、安全装置扉が不十分で、安全が確保されていない |
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対策 | 可動部に安全装置扉を増設する。 |
事例3 | スクリュー清掃時、加熱筒旋回は重労働で危険である |
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対策 | 作業者同士で声掛けをしながら安全作業を確認して作業をする。 |
(ⅱ)取り出し機
取り出し機は産業用機械に分類されるため、その可動範囲には安全柵が必要です。
取り出し機にはさまれ・巻き込まれる事例を解説します。
事例1 | 取り出しチャックの交換時、取り出しチャックを落として足をはさむ。 |
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対策 | 取り出しチャックは、フレーム、チャック、吸盤、センサーなど付いておりとても重い。取り出しチャックを一人作業でも簡単に取り付けられるように取り出しアームに、固定ピンを取り付ける。 |
事例2 | サンプル取り出し時に、取り出しチャックとサンプル受箱に手をはさまれる。 |
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対策 | サンプル採取時に、安全柵内に手を入れない。 |
(ⅲ)製品搬送経路 ベルトコンベア
事例 | ベルトコンベアはモーター駆動のため、手や指、作業服の袖などが巻き込まれてしまう。 |
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対策 | 必要に応じて、安全柵を設ける。 |
(ⅳ)粉砕機
射出成形工場では、ランナーや不良製品を粉砕して再生材としてリターンします。
事例 | 粉砕機はカバーやシューターにリミットスイッチが付いており、稼働中にカバーが開くと、強制停止する仕組みになっているが、年式の古い粉砕機は、リミットスイッチがないものも多い。 |
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対策 | そのままの状態で使用せず、安全装置を追加する。 |
② つまずき・転倒
射出成形工場においても、つまずき、転倒災害はとても多いです。
特に注意すべきポイントと事例、対策を解説します。
特に注意すべきポイント
- 成形機からのオイル漏れ
- 金型や温調機からの水漏れ
- 取り出し機からのグリース滴下
- 床に配線がむき出しになっている
- ハンドリフターを後ろ向きで操作している
事例1 | 稼働時間を最少にするため、型換えや段取り換えが最優先になる。床に垂れたオイルや、水漏れの清掃は後回しにしがちである。当人は把握していても、偶然通りかかった人は気づかずに被災してしまう。 |
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対策 | 床に垂れたオイル、水漏れは2次災害を引き起こすので、その都度拭き取る。 |
事例2 | 工場の床は、グリーンで塗装されている。これは、何か液体や物体が落ちていたりするのを、視認しやすくするためである。しかし経年により、所々ペンキが剥げ、黒く汚れて劣化していく。すると、床の障害物に気付かないまま、思わぬ転倒が起こることがある。 |
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対策 | 定期的に、床の舗装などの作業環境の補修を行う。 |
事例3 | 成形機や壁のコンセントから、電源を取る都合で、それぞれの機器の配線が床に転がされる。 |
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対策 | 人が通る安全通路内を横断する際は、つまずかないように配線カバーを取り付ける。 |
③ 墜落・転落
射出成形工場において墜落、転落は、特に現場の技術者に多い災害です。
特に注意すべきポイントと事例、対策を解説します。
特に注意すべきポイント
- 成形機上の作業(ホッパー清掃)
- 取り出し機の位置調整、点検作業
- フォークリフトの乗り降り
- 倉庫内作業
事例1 | 段取り換え時は、成形機に登って作業する必要があるため、急いでいたり、足場が不十分・不安定であったりすると、墜落転落災害が起こる。 |
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対策 | はしご、伸び馬を使用し安全作業をする。急ぎ、焦りは禁物である。高所での危険作業は適正な作業時間をかけるべきである。 |
事例2 | 倉庫にて、ネスティングラックや棚上に置いてあるプラスチック原料を取り出す際、無理な体勢で作業することがある。これが墜落転落災害に繋がる。 |
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対策 | 転落の原因になるので、たとえ1袋だけの移動だとしても、フォークリフトで倉庫環境を整えてから、取り出すべきである。 |
安全な射出成形工場管理ポイント
前項の他にも、射出成形工場内には危険がたくさん潜在しています。
4Mに分けてポイントを解説します。
① 人(Man)に起因する労働災害
射出成形工場には、さまざまな人が従事しています。
特に人に起因する労働災害は、標準化(誰がやっても同じ結果を得られる仕組み作り)がポイントになります。
- 個人の能力差による注意不足
- 外国人作業者
- 日々の疲れ疲労防止
などを許容できるような仕組みを全員で作り、守っていくことが重要です。
② 機械(Machine)に起因する労働災害
製造業は機械加工が基本のため、機械に関する災害の件数は多く、その規模も自ずと大きくなってしまいます。
機械に起因する災害には、環境作りが重要です。侵入禁止エリア、保護具着用作業など安全な職場は自分たちで作っていくべきです。
例1)火傷 |
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例2)感電 |
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対策 |
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③ 材料(Material)に起因する労働災害
射出成形工場において、頻出となる災害が腰痛です。
プラスチック原料は、一般的に25kg/袋であるため、反復動作により、腰痛が慢性化し、椎間板ヘルニアへ悪化していきます。
材料に起因する災害には、適正作業の周知徹底がポイントです。
- 原料袋の持ち方、姿勢
- 原料タンクへの投入方法
- 腰を痛める持ち方を事前に教育して認識させる
- 準備体操の重要性 など
特に注意して教育を徹底すべきです。
対策 | 身体に負担をかけない製品を材料輸送工程で使用する。 |
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④ 方法(Method)、その他に起因する労働災害
作業手順が違ったり、職場の環境が整っていなかったりなど、
思わぬ所に危険は潜在しています。
例1)火災 | 射出成形工場では、バーナーやガストーチを使用する。 |
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対策 |
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例2)地震 | 背の高い棚や、重心の高い備品が転倒して、下敷きになる。 |
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対策 | 転倒防止するため、壁や床にアンカー止めする。 |
例3)熱中症 | 大型ヒーターを持つ射出成形機は高温になるため、熱中症に気をつける。 |
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対策 | 大型ファン、スポットクーラーを適所で使用する。 |
安全委員会とKY活動(危険予知活動)
安全(衛生)委員会活動を通して、部署を超えて工場全体で安全な職場作りをすべきです。
また、各課、各部でKY活動を定期に実施し、ヒヤリハット事例を共有し、日頃から安全意識を高めていく必要があります。