[2023/3/17公開]
射出成形工場において、利益を最大化するには、稼働率アップ(止めない)・歩留まり率アップ(無駄なく使う)・不良率ダウン(不良品を作らない)の3点を最適化することが重要である。
本記事では、「稼働率アップ(止めない)」について解説する。成形機の停止時間を最小にすることで、稼働時間は最大になる。停止時間を最小にするポイントを軸に解説していく。
<こんな方にオススメ>
・射出成形工場における稼働率の改善方法を知りたい
・段取り時間の短縮ポイントを知りたい
・稼働しているけれど、生産性が落ちる原因を知りたい
生産計画への考慮
稼働率改善に一番有効なのは、きちんと生産計画を立てることである。計画の段階で、停止時間は決まるといっても過言ではない。効率の良い生産計画を立てるうえで考慮すべき点は、以下のとおりである。
(1) 生産する順番
射出成形は、1台の成形機で複数の成形品を生産するため、生産の順番が重要である。薄い色に濃い色を重ねることは可能なので、薄い色から成形する。また、加熱筒温度は上げるのは簡単だが、下げるのは時間がかかるので、低い温度の樹脂から成形する。
(2) まとめて生産
少ロット多品種生産は、無駄な在庫を持たなくて良いので、一見すると効率が良いイメージである。しかしながら、段取り換えが多くなり、歩留まり率が悪くなるため、稼働時間が減ってしまう。射出成形加工では、成形品の予定受注数と倉庫のキャパシティを見超して、まとめて生産することが望ましい。
(3) 人員確保
稼働するにも、人員が不足していては稼働できない。昨今、ものづくり業界は深刻な人手不足である。特に、土日や夜間作業、交代勤務は集まりにくい。稼働を安定させるために、人員確保は計画的に実施すべきである。
段取り時間削減
生産と生産の間に、段取り時間は必ず発生する。段取り時間を最小にするには、事前の準備と的確な作業が重要である。
(1) 段取りの準備ポイント
天井クレーン、金型、取り出しチャック、HRコントローラーなど、次の生産で使用するものは、成形機脇に移動しておく。温調が必要な金型は、事前に温めておく。次の原料をすぐ投入できるように準備しておく。
(2) 段取り作業のポイント
- 原料調整
生産予定に合わせた原料の停止調整は必須ポイントである。生産に対して原料が余ってしまうと、タンクやホッパードライヤーから抜かなければならなくなる。
生産残数(個) × 製品の重量(g)で、残り使用量+αにて調整する。
ただし、ギリギリで余裕が無いと、最後から数ショットは密度が下がり、ショートや湯ジワで不良になるため、ある程度の余裕は必要である。原料タンクやホッパードライヤーに目安となる目盛りを表示しておくと確認しやすくなる。 - 加熱筒温度を次に生産する樹脂温度に設定
原料調整の後に気を付けることは、加熱筒温度である。段取り時間のうち、加熱筒温度の上げ下げは、時間がかかる。生産終了後は、まず加熱筒の樹脂替えを優先すると良い。その後、金型、取り出しチャックの交換をしているうちに、加熱筒が設定温度に達している。 - パージの最速化
パージ玉は、厚紙やバットで受けて、射出台の張り付きを予防する。濃い原料への色替えや、温度差の違う樹脂替えには、パージ材を有効活用する。 - 金型の排水方法
エアーで金型水管の排水をする時、あらかじめ排水用のポリタンクを準備しておく。(恒久的には、エアー配管とドレン配管を設置し、コックの開け閉めでだけで排水できるような改善が有効である。) - 二人作業
一人で作業するよりも、二人で連携することで、一人作業の2.5倍くらい速く完了できる。段取り時間に合わせて、前もって手伝ってもらえるように声かけをしておく。
トラブル停止時間の削減
生産中のトラブルには、最速で状況判断し、復旧することが重要である。射出成形は、加熱筒内で樹脂を溶融するため、停止時間が長くなるほど、原料の粘度が下がったり、分解したり、物性が低下する。軽微なトラブルであれば、すぐに処置をしたうえで、射出ユニットをノズルタッチしたまま再稼働できる。金型や使用する樹脂にもよるが、5分以上停止する場合は、射出ユニットを後退して、パージからやり直し、立ち上げする必要がある。
トラブル停止時間を最小にするためのポイントは、以下のとおりである。
- アラームを大音量に設定
射出成形工場は、機械や装置の稼働音が大きいので、トラブル発生時のアラームが打ち消されてしまう。感知の遅れが停止時間に直結するので、アラーム音が小さく聞き取れない場合、大音量アラームの採用が望ましい。 - スプレーやハンドツールは各成形機に設置
トラブルの復旧に使用する道具は、成形機脇の手に取りやすい位置に常備しておく。道具を取りに行く時間、道具を探す時間は無駄である。 - トラブルマニュアルを作成しておく
事前にトラブル復旧手順を作成して、周知しておくことが重要である。1つのトラブルが発生するごとにトラブル事例をストックしていくことで、技術力が向上し、トラブル停止時間の削減に繋がる。
能力低下ロスの管理
稼働はしているが、1サイクル時間が伸びて、生産性が低くなることがある。一見稼働しているので、見落としがちである。能力低下ロスの管理ポイントは、以下のとおりである。
- 計量時間の監視
粉砕材を使用していると、粉砕の形状によって原料の食い込みが悪くなり、計量時間が伸びることがある。また、原料ロットのバラツキや、静電気による原料の張り付きなども、計量時間の伸びに影響する。 - 1サイクル時間の監視
取り出し機との連携が原因で、1サイクル時間に影響することがある。単純に取り出し能力の低下や、落下側にワークが詰まって製品を解放できないなど、さまざまな原因で取り出し機が成形機のサイクル時間に間に合わないことがある。
サイクルアップ
稼働時間中のでき高を上げるには、1サイクル時間を短くすることが効果的である。 サイクルアップに欠かせないポイントは、以下のとおりである。
- 金型開閉時間
射出成形の1サイクルのうち、金型開閉動作はサイクルが短縮しやすい。冷却時間は、成形品の寸法や外観(ヒケ)が変わってしまうので、時短には試作が必要である。 - 取り出し機械の取り出し時間
取り出し機の取り出し動作も、金型開閉動作と同様に、サイクルアップがしやすい。金型内の成形品を取りに行く動作を最短距離で動作設定したり、把持方法の変更などを検討する。
射出成形加工の稼働率アップに関して、考慮すべきことを解説してきた。しっかりとした生産計画を立て、停止時間の管理を徹底することが重要である。