成形現場にて、機器のメンテナンスを怠ると成形品・成形機・金型・周辺機器においていろいろな問題が発生する。その結果生産計画に影響が生じかねない。そこでここでは、成形現場のメンテナンスの基礎知識として必要なメンテナンスの種類や引き起こす問題、メンテナンスの考え方や管理・改善計画について解説する。
メンテナンスの種類
メンテナンスは大きく分けて、事後保全、予防保全、予知保全の3種類に分けられる。
事後保全(Breakdown Maintenance)
対象装置の機能低下や停止等を起こした後に、原因追及・部品交換・修理等を行うことを指す。
修理が簡単かつ短時間で行え、生産に対する影響が少ない場合に有効なメンテナンス方法となる。
成形機及び周辺機器類のメーカーの場合は、サービス体制が充実しているので、一般的な故障は迅速に対応してもらえることが多く、また、軽微な故障は予備品で対応する場合が多くなる。
しかし、修理や部品調達に時間がかかるような重篤なトラブルの場合、事後保全では対応が難しくなる。
また、金型については、一旦故障すると修理に長い時間が必要となり、生産に対する影響が大きくなる。
予防保全(Preventive Maintenance)
あらかじめ定めた基準に基づき、計画的・定期的に点検・部品交換・補修等を行うことを指す。予防保全を行うにあたり、基準は2つある。
表1 予防保全の基準
時間基準保全 (TBM, Time Based Maintenance) |
点検や交換の「時期」を、あらかじめ定めておくことを指す。 |
---|---|
状態基準保全 (CBM, Condition Based Maintenance) |
部品がどの様な「状態」になったら交換するのかを、あらかじめ定めておくことを指す。 |
時間基準保全、状態基準保全、いずれにおいても、部品の寿命の見極めや部品劣化の判定基準が重要となる。
期間やショット数等どの様なサイクルで、どの場所を診て、どの様に判断し、どの様な作業を行うかについては、過去のトラブルやメンテナンス内容を蓄積することで、適切な計画を立てることが可能となるので、過去の経験やノウハウの蓄積が非常に重要となる。
予知保全(Predictive Maintenance)
装置等の状態を感知し、取得したデータの分析を行うことで、故障する場所・時間を予知し、故障する前の適切なタイミングで部品交換や補修等を行うことを指す。
金型における予知保全は未だ実用化の途中ではあるものの、機器類においては、ログデータ分析で予知保全が可能なものもある。また近年では、各成形機メーカーにおいて、部分的に実用化され始めている。
メンテナンス不備によって成形現場で発生する問題
以下にて、金型、成形品、成形機、周辺機器類別に発生する問題の一例を紹介する。
メンテナンス不備起因で発生する問題の一例
金型 | 成形品 | 成形機 | 周辺機器類 |
---|---|---|---|
|
|
|
|
成形現場におけるメンテナンスの基本的な考え方、4つのポイント
1.日常的に金型や機械等の動き・振動・音等をチェックし、異常の前兆を感知する
ベテラン技能者の経験や感覚に頼る部分が多くなるが、動き・振動・音等に変化点が出た場合、異常を感知することが可能な場合がある。しかし、全ての金型トラブルに対応することは難しいと言える。
2.日常的に成形品の寸法・外観等をチェックし、不良の前兆を感知する
寸法の傾向値管理を行うことで、金型不良の兆候を事前に感知する事が可能になる場合がある。増加傾向が出ている場合は、金型の摩耗や離形不良等が考えられるので、成形終了後または次回メンテナンス時等の適切なタイミングで点検し、補修が必要かどうかの判断を行う。
また、外観不良の場合は、主に炭化物が問題となる場合が多くなるが、炭化物の前段階の黄色・褐色の酸化物等も発生していないか確認を行うことで、炭化物の発生に至る前段階で対処できる場合もある。
図1 寸法管理図の例
3.メンテ計画を策定し、確実に実行する
適切なメンテナンス計画を策定する為には、過去のトラブルやメンテナンス内容などのノウハウ蓄積が非常に重要となる。
そして、「点検・メンテナンスをすべき箇所」と「メンテナンス内容」を、「適切なサイクル」にて、「金型毎に」定めていく必要がある。
表3 金型における点検・メンテナンスをすべき箇所の一例
|
表4 キャビティコア関連における箇所別メンテナンス内容とサイクル考慮点の一例
メンテナンス内容 | サイクル考慮点 | |
---|---|---|
キャビティコアスライド |
|
|
細長い形状部 |
|
|
広い合せ面エアベント |
|
|
狭い合せ面 |
|
|
縦合せ面 |
|
|
スライド摺動部 |
|
|
Eピン/Eピン穴 |
|
|
オーリング |
|
|
4. 故障時に備えて、予備品を準備しておく
金型については、折れやすい入れ子ピン等を用意しておく場合が多くなる。
装置等については、納期の長いユニット等は高価となり、比較的低価格な交換部品は短納期で調達可能な場合が多く、リスクとコストの見合で一義的に決めることが難しいのが現状となる。
メンテナンスのデータ管理
メンテナンスデータを管理する際は、以下データと共に一元管理をしておくことが重要となる。
また、データを残す際は、事実だけの羅列ではなく、汎用性を持たせた情報として残し、組織のノウハウ蓄積に繋げる。
- 金型仕様書
- 設計図
- 成形履歴
- 成形条件
- トラブル履歴
- 金型の所在地 等
メンテナンス計画の改善
改善されていく金型に合わせ、メンテナンスの内容・サイクル・箇所・確認事項等のメンテナンス計画も改善を続けていく必要がある。
そして、これらのノウハウは、個別の事実としてデータベース化するだけでは、使われなくなる傾向がある。
そのため、組織のノウハウ蓄積や、他部品への水平展開や応用を可能とするためには、汎用性を持たせた情報として残すことが非常に重要となる。
組織のノウハウ・汎用的な知識に関しては本編のテーマではない為、ここでは重要性を述べるに留めておく。