- 安全な機械の設計に使用できる安全機器
- セーフティスイッチの特徴
- セーフティドアスイッチ
- イネ-ブルスイッチ
- 非常停止スイッチ
- セーフティライトカーテン
- セーフティレーザスキャナ
- セーフティリレー/セーフティリレーユニット
- セーフティコントローラ/セーフティPLC
- セーフティネットワーク技術
- セーフティ用バルブ
安全な機械の設計に使用できる安全機器
安全機器は、機械のリスク低減に用いることのできる機器である。NECA会員企業では、様々な安全機器を提供して、機械の安全設計にお役立ちしている。
図1.製造現場における安全機器設置例
セーフティスイッチの特徴
セーフティスイッチとは、安全防護のためのインタロックスイッチや、付加保護方策として設ける非常停止スイッチなどの、機械安全のために用いるスイッチの総称である。これらのスイッチは安全用途に使用するために、安全規格において以下のような要求事項が規定されている。
直接開路動作機構
非常停止スイッチの操作やガードの開放などのスイッチの作動時に伝わる力によって、スイッチの接点を確実に開路する機構で、IEC60947-5-1で規定されている。下図のような特徴をもっている。
図2.直接開路動作機構
セーフティリミットスイッチ、セーフティドアスイッチ、非常停止スイッチ等の内蔵スイッチには、このような強制的に接点を引きはがすための力を加えることのできる構造が組み込まれている。
無効化の防止に関する要件
ガードに取り付けて使用するセーフティスイッチの使用基準の規格であるISO14119において規定されている。専用アクチュエ-タ以外の日常使用するキ-、コイン、ドライバなどの簡単な方法で容易に操作ができないことが求められている。
セーフティドアスイッチ
セーフティドアスイッチは、機械の危険な可動部をカバーするガードの開閉を検知するスイッチで、ガードが閉じている時に限り機械の起動を許可するインタロックに使用することができる。
ガ-ドを閉じた状態でロックできる機能を付加したものや、非接触式のものなど、様々な種類があります。ガードインタロックスイッチなどとも呼ばれている。
図3.セーフティドアスイッチの概要
イネ-ブルスイッチ
イネーブルスイッチは、作業者が無意識で操作しても危険回避を可能にするスイッチである。ロボットのティーチング、段取り替え、保守、メンテナンス時には、ガード内の危険領域で作業が必要となる。このような時イネーブルスイッチを使用すると、危険領域内での作業時に、機械の予期しない動作という危険を回避することができる。
イネーブルスイッチは、ティーチングペンダントやグリップスイッチなど、主に手持ちの操作機器に組み込まれ、軽く押した状態が保持されている間に限り機器やロボットの手動運転を許可する。その状態で危険に遭遇した瞬間、作業者が反射的にイネーブルスイッチから手を離したり強く握り込んだりすることで、運転を停止させる。
3ポジションイネーブルスイッチの使用は、ISO10218などの産業用ロボット規格や、工作機械規格等で必須とされている。
また3ポジションイネーブルスイッチ規格:IEC60947-5-8は、NECAから提案し、日本発の国際規格として成立した。
図4.製造現場でのティーチングペンダントとグリップスイッチの使用シーン
図5.3ポジションイネーブルスイッチの取り付け例
図6.OFF-ON-OFFの3ポジション状態遷移図
非常停止スイッチ
非常停止スイッチとは、機械の運転や作業全般における機械の異常時や作業者の危険遭遇時に作業者が自分の意志で機械を緊急停止させるために操作するスイッチである。
もし、このスイッチが機能しなければ即事故や災害に直結する危険性が高いため、非常停止スイッチには国際安全規格において種々の必要要件が規定されている。
非常停止機能に関する要件
- 全運転モードで有効であり、他のいかなる制御に対しても最優先すること。(ISO13850、IEC60204-1)
- 各操作制御パネルや、その他の作業位置の近くに設置し、緊急事態に即操作可能とする。(ISO12100、ISO13850、IEC60204-1)
- 確実な停止状態とするため、停止カテゴリ0または1とすること。(ISO13850、IEC60204-1)
非常停止スイッチの構造に関する規格要件
- 接触不良/断線などの故障時にもフェールセーフになるよう、直接開路動作機能のNC接点を使用すること。(IEC60947-5-5、IEC60947-5-1)
- 視認性がよく他の操作スイッチと容易に識別しやすいよう、操作部は赤色で背景は黄色にし、手のひらで操作しやすい形状にすること。(IEC60947-5-5、ISO13850、IEC60204-1)
- 予期しない再起動を防止するよう、操作部のラッチングと同時に停止状態を保持し、手動によってリセットする構造とすること。(IEC60947-5-5、ISO13850)
セーフティライトカーテン
セーフティライトカーテンとは、機械の危険源に対して接近する人を検知するために使用するセンサである。機械の危険源から人体を保護するために、ガードで危険部を覆ったり、メンテナンスが必要な部分は扉をつけたりする。
しかし、機械で加工するための素材の供給や取出しを頻繁に行うには常時開いている開口部が必要である。この開口部を光によって防護するのがセーフティライトカーテンである。
セーフティライトカーテンは、透過型の光電スイッチを一列にたくさん積み重ねたようなセンサで、一定の幅の領域を監視する。機械の稼動中に人体が侵入して光が遮られると、機械を停止させる。
セーフティライトカーテンは人体の保護を目的としており、IEC61496シリーズで機能や安全性について規定がある。人体の保護を目的とする場合には、この規格に適合したライトカーテン以外を使用してはならない。
セーフティライトカーテンに要求される機能
IEC61496シリーズの規格では、セーフティライトカーテンなどの人体保護用のセンサをESPE(Electro-Sensitive Protective Equipment)と呼ぶ。セーフティライトカーテンには、以下のような機能が求められる。
- 危険に至る故障をチェックするテスト手段をもつこと。
- 一定水準以上の耐ノイズ性能を持つこと。
- 光線の放射角度は一定の基準以下のこと。
セーフティライトカーテンのタイプとカテゴリ
ESPEには4つのタイプがある。近年用いられているセーフティライトカーテンの多くはタイプ4であり、カテゴリ4に対応している。
セーフティライトカーテンの設置
セーフティライトカーテンを機械に設置する際のルールも定められている。
設置する機械には、停止機能が備えられていることが必要である。また、機械の内部から加工物や破片などが飛び出すような開口部には、使用できない。飛来物の防護には、開口部に扉を設置することが必要である。
セーフティライトカーテンを設置する位置は、センサの検出性能、機械の停止時間や身体の侵入速度などを考慮して決める必要がある。このセンサの設置位置に関する距離の計算はISO13855に従って行う。この規格は、JISB9715としても定められている。
安全距離の計算式(ISO13855)
- 安全距離 S = K × T + C
- K:
- 人体の侵入速度
- T:
- 装置システムの全体の応答速度
- C:
- 最小検出物体から計算される追加距離
図7.セーフティライトカーテンの安全距離
セーフティレーザスキャナ
セーフティレーザスキャナは、機械が動作している領域への作業者の侵入を検知するためのセンサである。危険領域内に人が入り込めるような場合にはセーフティドアスイッチやセーフティライトカーテンで侵入を検知するだけでは十分とはいえない。
ロボット稼動エリアや機械設備の周囲では「そこに作業者が存在するときには機械を起動させない」というのが安全確保の原則である。
このようなある特定の領域を2次元的に検出するのがセーフティレーザスキャナである。
セーフティレーザスキャナはレーザ光をスキャンさせその反射光をモニタすることでエリア内の安全を監視する。
図8.セーフティレーザスキャナ監視例
セーフティレーザスキャナに要求される機能
セーフティレーザスキャナもセーフティライトカーテン同様にESPEの一つに位置付けられている。また、反射式であることから、追加の要求事項が個別の規格で定められている。以下のような機能が規定されている。
- 危険に至る故障をチェックするテスト手段をもつ。
- 一定水準以上の耐ノイズ性能を持つこと。
- レーザ光はクラス1を使用すること。
- 色による反射率の変化が少ない波長を使用すること。
- 検出面が汚れたら警報を出すこと。
セーフティレーザスキャナの設置
セーフティレーザスキャナにおいても、機械に設置する際の距離等は規格に沿って検討する必要がある。その検討には安全距離について規定したISO 13855のほか、人体保護用のセンサの設置基準について規定したIEC62046などを参照することができる。 セーフティレーザスキャナの検知エリアの境界と機械の危険エリアとの間の安全距離Sは以下のように計算する。
- S = 1600 ×(t1+t2)+(1200-0.4h)
この式に以下を代入し、計算する。
- t1:
- セーフティレーザスキャナの応答時間(s)
- t2:
- 機械の停止時間(s)
- h:
- 床からの検知エリアの高さ(mm)
床からの検知エリアの高さhは、使用するセーフティレーザスキャナの検出能力dとの関係においてh≧15(d-50) を満たす必要がある。さらに、1200-0.4h ≧ 850とする必要がある。
レーザスキャナの検知エリアは、この安全距離に加え、製品ごとの計測誤差の値についても考慮した上で設定する必要がある。計測誤差の考え方の詳細についてはセーフティレーザスキャナのメーカに確認が必要である。
セーフティリレー/セーフティリレーユニット
機械を安全に設計するためには、その制御に用いる部品も安全を考慮したものでなければならない。セーフティリレーやセーフティリレーユニットは、そういった安全制御のために必要な特徴を備えた部品である。
セーフティリレーと一般のリレーとの主な違い
セーフティリレーとは、故障しないリレーではなく、故障の時の動きが決まっているリレーである。一般リレーと異なり強制ガイド接点機構により接点溶着時にも安全機能を確保している。
強制ガイド接点機構
a接点が溶着した場合にはb接点が0.5mm以上の接点間隔を持った状態となる機構で、IEC61810-3に規定されている。この機能を利用して、接点の状態を監視することができるため、溶着などの故障が発生した際には機械動作を継続させないような安全回路への使用に適している。
図9.強制ガイド接点機構におけるa接点とb接点の関係
セーフティリレーとセーフティリレーユニット
セーフティリレーは、機械の安全を確認する入力を取り込み、安全を確認した上でコンタクタ等への出力を制御する安全回路の構築に使うことができる。セーフティリレーユニットは、セーフティリレーを用いた安全回路の制御機能をあらかじめ構築してユニット化した部品である。
セーフティコントローラ/セーフティPLC
安全回路に用いることのできる部品は、セーフティリレーやセーフティリレーユニットだけではない。機能安全と呼ばれる分野の規格や技術の発展に伴い、安全回路にも電子部品やソフトウェアを用いることができるようになってきている。
セーフティコントローラ/セーフティPLC
機能安全規格により、電子機器やプログラマブル機器の安全立証と安全用途への適用ができるようになった。
これを実現したものが、セーフティコントローラ/セーフティPLCであり、制御機器メーカがあらかじめ構築した電子制御プログラムや、ユーザが設定するソフトウェアなどにより、安全制御に適した回路を構築することができる。
セーフティコントローラ/セーフティPLCは、一般のコントローラに比べ、安全規格で要求される故障監視・自己診断機能を追加している。診断機能を定期的に実行することにより、コントローラ自体の故障検出時に機械を安全に停止させることができる。また、コントローラと接続している安全入出力機器の故障時においても、機械を安全に停止できるような制御が構築できる。
IEC61508機能安全に関する要求事項
IEC61508は、電気・電子・プログラマブル電子系全般を安全機器に適用するために制定された規格である。次のような特徴によって、信頼性の高い安全制御プログラムの構築ができるようになっている。
- 定期的な確認試験が実施され危険が顕在化しない(例えば、自己診断によって故障が検出される。)
- 構成部品の劣化と寿命に対する信頼性が評価されている(例えば、それぞれの部品機能の失敗確率が把握されている。)
- システムの信頼性が評価されている(例えば、ある危険からの防護が別の危険を招かないことが確認できている。)
セーフティネットワーク技術
機能安全技術により、セーフティコントローラ/セーフティPLCの普及が進むにつれ、一般プログラマブルコントローラ(PLC)で用いられている技術が安全の分野にも応用されるようになった。ネットワークによるコントローラの分散制御、センサやアクチュエータの分散配置がその一つである。
このネットワークにおいても、IEC61508の考え方を取り入れた安全ネットワークに関する技術がIEC61784-3で規格化され、安全用途でも使用が可能となった。
IEC61784-3においては、IEC61508の考え方に基づいて、通信で発生しうる異常(エラー)の発生の許容できる確率が規定されている。また、通信システムに固有である通信の遅れを考慮した安全応答時間や通信異常とその対策についても規定されている。
このようにして、FAの分野で一般的に用いられているネットワーク技術を安全機器に適用できるようになり、より安全機器の適用範囲が広がった。今日では、さまざまなFA用ネットワークが安全ネットワークとして規格化されている。
図10.従来のシステムとセーフティネットワークを用いたシステム
セーフティ用バルブ
3ステップメソッドの2ステップ目にあたる付加保護方策の中には、動力供給の遮断及び蓄積されたエネルギの消散がある。動力エネルギとしての油圧、空気圧の供給や消散、隔離、封じ込めを行う機器がバルブである。セーフティ用バルブとは、安全関連部として使用できるよう故障を診断できる機能をもち、ISO13849-1に基づく評価を行った機器を指している。
ISO13849-1では、油空圧機器も安全関連部に含まれている。例えば空気圧シリンダ用電磁弁が故障すると、PLrに対応した電気回路を構築していても、空気圧シリンダが電気制御とは異なる動作をする可能性がある。そのため、機械の安全制御には、出力機器である油空圧バルブにもPLr対応を考慮する必要がある。
セーフティ用バルブの種類
バルブの故障状態は、弁体の開閉検知により判断する。バルブの基本仕様や安全機能でまとめると、下表となる。
表1.セーフティ用バルブの種類(主な用途と対応する機能)
基本仕様 | 主な用途 | 1)残圧排気 | 2)落下防止 | 3)強制復帰 | |
---|---|---|---|---|---|
バルブの種類 | 3方弁 | 2方弁 | 5方弁 | 5方弁 | |
タイプ | 常時閉 | 常時閉 | 3位置 クローズドセンタ |
2位置 リターン式 |
|
基本機能 | 遮断と排気 | 圧力保持 | シリンダの駆動制御 中間停止可能 |
シリンダの駆動制御 | |
操作方式 | 電磁式、手動式、 パイロット式 |
電磁式、パイロット式 | 電磁式、パイロット式 | 電磁式、パイロット式 | |
オプション機能 | 飛び出し防止 | 圧力検知ポート 残圧抜き |
圧力検知ポート 残圧抜き |
- |
注釈
- -:
- 該当無し
表2.セーフティ用バルブの安全機能(用途とバルブの種類別)
記号 | 単式/複式 | 主な用途 | 1)残圧排気 | 2)落下防止 | 3)強制復帰 | |
---|---|---|---|---|---|---|
安全機能\バルブの種類 | 3方弁 | 2方弁 | 5方弁 | 5方弁 | ||
① | 単式 | 弁体開閉検知スイッチ付 | ○● | ○● | ○● | ○● |
② | 複式 | 弁体開閉検知スイッチ付 | ○● | ○● | ○ | ○ |
③ | 複式 | モニタリング機構内蔵 (自己診断、再起動防止) |
○ | - | - | ○ |
注釈
- ○:
- 空気圧用
- ●:
- 油圧用
- - :
- 該当品無し
- ①:
- 弁体開閉検知スイッチにより、バルブへの入力信号に対するアンサーバックが可能
- ②:
- 2個のスイッチ信号と外部モニタリング回路(故障診断、再起動防止)を組み合わせて使用。
(図11.スイッチ付複式3方電磁弁の動作図を参照) - ③:
- ②にモニタリング機能を付与したもの(空圧式、空圧ー電気式、電子式など)
なお、②、③に類するものとして、以前からプレス用複式電磁弁という製品がある。
永年の実績からプレス以外の機械でも使用されるようになってきた。
セーフティ用バルブの主な用途1)残圧排気弁(3方弁)
メンテナンス時に空気圧回路内に圧縮エアが残っていると、予期せぬシリンダの動作で事故に至るケースがある。そのため、ISO4414や米国の労働安全衛生法である OSHAでは、メンテナンス時のエネルギ遮断、消散および該当機器へのロックアウトが必須条件となっている。
図11.スイッチ付複式3方電磁弁の動作図 一覧表1)-②
残圧排気弁のオプションー飛び出し防止弁(2方弁、3方弁)
飛び出し防止弁は、残圧排気弁と組み合わせて使用する。残圧排気後の再給気時に、空気圧シリンダが飛び出すのを抑える。弁開放初期は流量を絞り、2次圧が設定圧の40~60%に高まったら、弁を全開にする。
残圧排気弁と一体となった複合機能弁もある。
図12.飛び出し防止弁の時間と圧力の関係
セーフティ用バルブの主な用途2)落下防止バルブ(2方弁、5方弁3位置)
油空圧回路では、動力エネルギの供給遮断、消散に伴う危険動作の典型例として上下用シリンダで支える重量物の落下(圧力消失による降下)が挙げられる。
落下防止バルブは圧力を閉じ込めることで、落下を防止する。注意事項として、圧を閉じ込めているという表示や閉じ込めた圧の開放方法を用意しておくことである。専用機器では、これらに対応するオプション(圧力検知ポート、残圧抜き弁など)も用意されている。
図13.落下防止バルブの設置例
セーフティ用バルブの主な用途3)強制復帰バルブ(5方弁2位置)
シリンダの動作方向で、安全側、危険側が決まっている場合、システム異常時には安全側へ復帰させることで安全を確保する。
例えば空気圧シリンダ式プレスでカテゴリ4を達成するための方法として、上昇端が安全側で、システム異常時に確実にシリンダを上昇させて安全確保するシステムが考えられる。複式電磁弁を用いた場合には、片側弁体故障でも強制復帰が可能である。
図14.カテゴリ4の回路例
NECA(一般社団法人 日本電気制御機器工業会) 安全ガイドブック(第7版)より参考