射出成形業において金型とは、射出成形機や周辺機械と同様に無くてはならないものである。金型が壊れてしまえば製品は作れず、金型の不具合は直接製品に影響を及ぼす。パーティングラインのバリが出ていれば、仕上げにバリ取りをしなくてはいけなくなり、冷却水管が詰まれば、冷却不足により、製品表面は波打ち(現場用語:メラ)、寸法は小さくなってしまう。
良品を成形するには「良い金型」が必須となる。金型の良し悪しを判断でき、射出成形の理解を深めるためにも、射出成形現場でできる金型のメンテナンスについて解説していく。
金型9割
「金型9割」という現場のフレーズがあるが、射出成形において、製品の善し悪しを決めるのは金型と言っても過言ではない。良い金型とは、
- 成形条件の許容幅が大きい
- 外因を受けづらい
- 冷却能力が高い
- 成形寸法、重量が安定している 等
極端に言えば、単純な1速1圧の成形条件で、24時間ノントラブルで稼働できるような金型のことを指す。金型が良ければ、どんな条件・機械・原料でも、良品を成形することができる。「金型9割」とは、それほど射出成形において、金型のウエイトが大きいという意味合いである。
金型メンテナンスの注意点
金型メンテナンスをして良い範囲を確認する
金型は資産であるので、お客さまの資産でお預かりしているのか、自社の資産なのかを確認しておこう。特にどこからどこまでのメンテナンスを行って良いのかを先に確認することが重要だ。自社資産の場合は社内の許可を得れば、基本的にメンテナンスを行える。しかしお客さまからのお預かりしたものだとすると、細かな取り決めがある。以下に、お客さまの資産金型の場合の取り決め例を挙げる。
- 金型メンテナンスの場所(客先、客先指定の金型メーカー等)
- 金型メンテナンスの頻度
- 金型メンテナンスの範囲 等細かく決まっている。
金型メンテナンスに必要な手順・知識を学ぶ
メンテンス経験者や金型メーカー等から、メンテナンス手順の指導を受けよう。射出成形の業種は様々で、車・家電・医療等、業種が変われば金型の作りや精度も全くの別物となり、その業種ごとの制約やルールがある為、OJTを受けることで、細かな勘所を習得していこう。
これらの前提となる金型メンテナンスの基礎的な知識の学習(以下参照)も重要となる。
- 金型の構造(各部品の呼び名、意味、役割)
- 金型図面の読み方(強制ボルトの仕組み、スライドの動き、ストリッパーの動き等)
- OJT(On the Job Training)
細心の注意をもって取り組む
「コツン」と軽く当てただけで製品の形状に影響が出てしまう。組み込み向きを逆にしてしまえば、金型を閉めた時に潰してしまう。金型メンテナンスは細心の注意を払って行おう。
現場でできる金型メンテナンスのポイント
射出成形の業種で異なるが、一般的な「現場でここまでやれると良い」という金型メンテナンスポイントを解説していく。
成形機上に乗せて行う金型清掃ではなく、金型を成形機から取り外して、作業台上でキャビティ、コアを分解して金型メンテナンスをしていこう。
金型メンテナンスの基本は、金型内のガス汚れ除去
成形ショットが増すごとに、液化、固化したガス汚れがベントに詰まっていく。金型は、きれいな状態が「正常」であり、ガス抜けが悪くなれば、当然、成形品に影響する。
- ウエルドが強くなる
- 焼け、気泡、ショートが発生する
何万ショットも打ち込んだガス汚れたっぷりの金型では、成形機上で不良トラブルに悩むことは目に見えているので、規定ショットを決め、定期的に金型メンテナンスを行うことで予防しよう。
各所点検、消耗品の交換
金型メンテンスは、点検が重要である。
- 金型内で金属同士が当たる箇所(キャビティ、コアの当たり面、ガイドピン、スライド、アンギュラピン等)
- 冷却水の通り道 等
部品の消耗や劣化を発見した時は、消耗部品の交換をしよう。
入れ子のクラックや、カジリが発見された時は、そのままにせず対応しよう。
PL、エジェクタピン、ストリッパープレートのガス除去
成形不良の多くがPL面(パーティング面)で発生するので、キャビティ、コア両方のガスベントをしっかり清掃しよう。エジェクタピン、ストリッパープレートの合わせ面も同様にガス抜け道なので、ウエス・綿棒・木綿糸・ガス除去剤・パーツクリーナー等を使用し、しっかりガス汚れを除去していく。金型取付板、エジェクタプレート、型板、ストリッパープレートのバラシ、組みは細心の注意を払い作業しよう。特にクレーンで吊る作業は十分に気をつけよう。
スライドコア(摺動部)点検清掃
スライドコアもガスで汚れていくので、バラして清掃しよう。
スライドコア点検清掃ポイント
- 摺動部のカジリや動作不良
- 冷却水管からの水漏れがないか
- 水路Oリングが劣化し、ヒビ割れしていないか(不良品は交換する)
- 清掃後の組み込み時は、グリス塗布しすぎで製品面に溢れてないか
- スライドコアの向きや場所(刻印を合わせる)に注意
ガスベントの点検(流動末端部、ガスの巻き込み箇所)
金型構造が複雑になると、極端にガス抜けの悪い所がある。
- 流動末端部
- 多点ゲートの樹脂合わさり箇所
- 樹脂の流れが袋小路になり巻き込んでしまう箇所
重点的にガスベントの点検清掃をしよう。成形ショットが増すことで、ガスベントは潰れていく。ガスベントを綺麗に清掃した後でも、生産時に成形不良が発生してしまう場合は、「ガスベントの彫り直し」が必要となる。
冷却水管清掃
細長い筒状の製品の金型は、入れ子内部に噴水状の冷却水管が通っており、この噴水は時間の経過とともに、汚れが溜まっていく。サビと水の腐敗した汚れは頑固なので、噴水は錆取洗浄剤等に漬け込んで清掃しよう。Oリングも劣化していれば交換する。
※冷却水管の汚れは、工場の水質(温調機/チラー)に大きく影響されるので、点検して都度状態を把握しておこう。