射出成形:成形不良
- ひけ(sink mark)は、成形品の表面が収縮によって、ほんの少し凹んだりする現象です。外観表面を有する成形品では、品質不良になるケースがあります。ひけが成形品の表面に現れないで、成形品の内部に気泡(空洞)が発生する場合もあります。これはボイド(void)と呼びます。ひけもボイドも溶けたプラスチック樹脂が冷却固化する過程で、異常な収縮を起こすために発生する現象です。 これらの不良を防止するためには、根本的に異常な収縮を抑制する手段を講ずることで解決が図られます。 ひけを解決するためには、下記のような手段が考えられます。
- 射出成形に使用される熱可塑性樹脂(Thermoplastic resin)は、金型の中に加温されて液状になった状態でキャビティ内へ注入されて、金型の表面に接触することで熱量を奪われて冷却され、固化します。 このときに、液体のときの体積は、固化する際に体積収縮を起こして縮みます。この現象を「成形収縮」と呼んでいます。英語ではshrinkageと言います。 成形収縮は、プラスチック射出成形品を作る上では大変重要な物理現象です。所望の寸法や形状の射出成形品を生産するためにはこの物理現象を的確に理解しなければなりません。 さらに、射出成形金型の設計や機械工作をする際には、成形収縮を考慮した寸法と寸法公差でキャビティなどを作る必要があります。 成形収縮は、熱可塑性樹脂の種類によって大きく範囲が決定されます。つまり、樹脂の種類によって収縮率は左右されます。しかし、樹脂の種類以外にも以下の要素を考慮しなければなりません。
- ジェッティング(ジェットフロー)は、成形品の表面に蛇行した「くねくね模様」が現れる外観不良です。 ジェッティングは、ゲートからキャビティ内に射出された樹脂が、一気に猛スピードでキャビティ内を流動し、ゲートと反対側の壁に衝突した後に、ゲート近傍から充填が進行するために発生します。 熱可塑性プラスチックの射出成形加工とは物理現象は異なりますが、イメージとしては、練り歯磨きチューブをギュッと握ったときに、歯磨きペーストが不安定ににゅるにゅると空中に射出される現象と類似した、粘性流体の挙動であると考えてください。 ジェッティングの対策は、以下のような方法が考えられます。
- プラスチック射出成形では、細いリブの先端部等にガス焼けが発生し、成形品の一部が黒変し炭化してしまう現象が見られる場合があります。 ガス焼けの発生メカニズムは、金型のキャビティ内部の空気が、キャビティ内部に流入してきた溶融プラスチックによって排気される際に、行き場のない閉塞状態となってしまった場合に、空気が圧縮されるために自己発熱し、それによって燃焼するために発生します。 空気は、気体ですので圧縮されますが、圧縮に伴って発熱します。自転車のタイヤに空気入れで空気を送り込む時に、空気入れが熱くなるのと同じ理屈です。 キャビティ内部の残存空気の圧縮は、通常0.1〜0.5秒程度の短時間に発生し、しかも1平方センチあたり200〜500kgfもの高い圧力で圧縮されるので、簡単にプラスチックの燃焼温度まで昇温してしまいます。(【図】参照)
- 気泡(bubble、void)は、成形品の内部に空気の泡が発生する現象です。レンズやプリズムのような透明な成形品では、外観不良や光学特性不良になってしまいます。機械部材では、強度の低下や破壊の原因になったりします。 気泡には、発生原因別に2つの種類に大別されます。 1つ目は、溶融プラスチックの中に空気が混ざってしまったことに起因する気泡です。これは、(bubble)に相当します。 もう1つは、成形品が収縮する際に発生する真空ボイド(void)です。これは成形品の肉厚が厚い部分に十分な保圧が作用しなかった場合に、ひけが発生するのと同様に、異常収縮によって引き起こされる現象です。 これらの対策としては、下記が考えられます。
- ショートショット(shortshot)は、成形品の一部に不完全な充填が起きる現象です。 ショートショットには、性格的に2種類の原因が考えられます。 1つ目は、溶融樹脂が流動する途中で、流動先端部分が冷却固化するために発生するものです。 2つ目は、流動する過程で、流れの状況によって空気溜まり(エアトラップ、air trap)が生ずるために発生するものです。 ショートショットの解決対策としては、上記のいずれのタイプであるかを確認する必要があります。
- 射出成形加工を行っている時に、成形機を一次停止したままにしておくと、射出シリンダーの中の溶融プラスチックが熱分解を起こすことがあります。 熱分解が発生すると、下記の現象が発生します。