化学装置における冷却系など、限られた範囲の環境では、防食剤を適量添加して金属の腐食発生を防止することができます。防食剤が有効に働く環境は、水・酸・湿気など水の存在する環境で、主な対象金属は、鉄鋼がほとんどです。銅や銅合金を対象としたものもありますが、鉄鋼用に比べればごく小量です。
防食剤が腐食を抑制する作用機構は、防食剤の種類によって異なりますが、次の3つのタイプに分けられます。
(1)不動態化剤
腐食環境へ加えることによって、不動態化を促進して防食するものを、不動態化剤といっています。水中で鋼は、不動態化する性質をもっていますが、空気を含んだ普通の水の中では不動態化せず、より強力な酸化剤の存在で初めて不動態化皮膜を形成します。この系の防食剤として代表的なものは、クロム酸塩や亜硝酸塩です。
これらは、循環冷却水に50〜100ppm添加され、クーリングタワーで放熱するとき、冷却水の一部が蒸発して、蒸発潜熱によって冷却します。
しかし近年は、クーリングタワーからの飛沫の飛散や、廃液処理などの環境問題からクロム酸塩は使われなくなりました。
(2)鉄表面に防食層を形成
鉄表面に防食剤自体や防食剤と水中の成分が結合して皮膜を形成して防食するものです。重合りん酸塩やホスホン酸塩に水を加えると、それら自体は水によく溶けますが、水中に存在するカルシウムイオンあるいは、別に加えた亜鉛イオンなどと結合して、鉄表面に不溶性の皮膜を形成します。これらの皮膜は、不動態皮膜とは違って、厚くて多孔性の水酸化物または酸化物であるため、水中で溶存酸素が鉄表面へ拡散するのを妨げることによって、腐食を防ぎます。これらは、クロム酸塩に代わって、開放系循環冷却水の防食剤の中心になっています。
(3)鉄表面に吸着して成膜
鉄表面に吸着して、それらの分子によって成膜することによって防食するものです。代表的なものは有機アミンです。有機アミンの窒素を含む部分が(極性部分)鉄鋼表面に吸着して、それ以外の非極性の部分が外側に配置され、水を寄せ付けない構造になります。このような吸着層が鉄表面を覆ってしまうと、全体としてプラスの電荷をもつようになりますので、酸洗い浴に添加してインヒビター(溶解抑制剤)としてもよく用いられています。