イオンプレーティングは、真空蒸着装置の基板と蒸発源との間に、蒸発材料をイオン化する装置を付加したものです。真空槽に、アルゴンなどの不活性ガスを導入し、10-1〜10-2Paの雰囲気で、蒸発した蒸発材料の原子をグロー放電のプラズマ中でイオン化し、これに電気エネルギーを与えて加速し、基板に衝突させて皮膜を形成するものです。次のような特徴をもっています。
1. | めっきの前処理として、Arイオンなどによる素地のスパッターが行えるので、素地表面に存在する吸着ガス、油脂、酸化物等の不純物除去ができる。 | |
2. | 蒸発材料原子は、グロー放電中でイオン化され、電界で加速されて衝突するので、素地との間に化合物が生じ、これが密着性を高める。 | |
3. | 真空蒸着では、蔭になって皮膜が形成できないような部分にも成膜できるが、電気めっきと比較するとつきまわり性は悪い。 | |
4. | 反応性ガスの導入により、炭化物、窒化物などが成膜できるため、切削工具や金型の寿命を向上させる超硬質の皮膜をつくることができる。 | |
5. | 皮膜生成速度が1μm/minと大きい。 | |
6. | TiN皮膜は、黄金色をもち、電気めっきよりも耐食性、耐摩耗性が優れているので、装飾分野への応用がある。 | |
7. | 処理温度が500℃と比較的低いため、素材の寸法、材質変化が少ない。 |
【表1】導入ガスと得られる皮膜
|
イオンプレーティングのつきまわりは悪く、深いくぼみや、孔の内面などに成膜することは不可能です。このような製品への施工は避けるとともに、通常はつきまわりを向上させるために、槽内で製品を、自転・公転させるような冶具を用いています。
また、製品表面の粗さは皮膜の密着性に重大な影響を及ぼします。旋盤のツールマークなどが深くて粗い場合には、たとえ平面であっても、ミクロ的には多方向に面をもつので、密着力の弱いところができてしまい、結果的に全体の密着力を低下させます。ピンホールがある鋳物などの場合も同様です。