Q
型材質の選び方を知りたい。
A
抜き型のパンチ、ダイを例として材質選定を考えてみます。パンチ、ダイに使われる材質を並べてみます。
プリハードン鋼(HPM)→炭素工具鋼(SK3)→特殊工具鋼(SKS3)→ダイス鋼(SKD11)→高速度鋼(ハイス鋼、SKH51)→超硬合金(V30)
金型にたずさわる人であれば、おおむねこのような並びとなると思います。鋼種は標準的と思えるものを記しています。
抜き加工を例として解説します。
先に示した鋼種の並びは、寿命をイメージして並べられたものです。無意識にプレス加工する生産数と型材質を関係付けしているのです。
抜き加工の被加工材が軟鋼板(SPCC)で、加工数量がごく少量であれば、パンチ、ダイの材質はプリハードン鋼または炭素工具鋼とし、パンチ、ダイの加工が容易。または鋼材が安価なものを優先して選択します。加工数量が増えるのにあわせて、特殊工具鋼→ダイス鋼→超硬合金と変化させます(加工数量の刻みと、鋼種の関係は企業ごとの判断となります)。この変化を基本として、次のような変化があります。
いくつかの例を示すと、炭素工具鋼Sk3は水焼き入れです。焼き狂いや焼き割れが起きやすいので、ほぼ同等の機能を持ち油焼き入れができる特殊工具鋼SKS93を使用することがあります。この置き換えが多くなり今は、SK3のつもり使用している材料は、SKS93が多いように思います。
ダイス鋼SKD11をワイヤカット放電加工で加工して使うときは、高温焼き戻し(約500〜600℃、一般は低温焼き戻し150〜200℃)が加工の安定や寸法変化を軽減することから採用されますが、JISのSKD11は高温焼き戻しをすると硬度が58HRC程度となり、耐摩耗性が低下します。そのため、高温焼き戻しをしても硬度が低下しないように開発されたダイス鋼(DC53等)を使うことがあります。
比較的小さいパンチ、ダイでは靱性を求めて、ダイス鋼SKD11の代わりに高速度鋼SKH51使うことがあります。 生産量が多量になると、ダイス鋼SKD11では不満を感じてきます。より寿命に期待できる粉末ハイス鋼または超硬合金へとの展開となります。コストや加工のしやすさの関係から粉末ハイス鋼が使われたり、より高寿命を期待して超硬合金を選択したりします。
超硬合金は炭化タングステン(WC)や炭化チタン(TIC)を、コバルト(Co)をバインダ(接着剤)として作られています。コバルト量により硬さと抗折力が変化します。両者は反比例の関係にあります。抜き加工では中間的な材質、V30またはV40が使われます(V30、V40は超硬工具協会規格です)。使い分けは一般的にはパンチを硬く(例えばV30)して、ダイを軟らかく(例えばV40)設定します。以上は一般の超硬合金の使い方のイメージです。
抜き形状が微細であったり、より寿命を考えると超硬合金のWCやTICの粒度を小さくします。超微粒子と呼ばれるものです。抗折力や耐摩耗、チッピングに対する改善効果が期待できます(粉末ハイスについても粒度の微細化効果は同様です)。
以上は軟鋼板(SPCC)をイメージしたものですが、ステンレス鋼板(SUS)やアルミニウム、銅合金等の材質についても同じような基準にたって、材料の性質から型鋼材を決めます。
選択した型鋼材は、焼き入れ、焼き戻しの仕方、面祖度の違いによって差が生じます。
コーティングはその型鋼材の寿命をさらに伸ばしたいときに使われるものです。軟鋼(S50C等)にコーティングをしてもダイス鋼を越えるようなことはありません。