絞り加工では、【図1】に示すように、元の素材板厚(t1)より、絞り側壁は厚くなります。ブランク径(D)は絞りの進行とともに縮小しますが、その反動として、板厚が増加します。絞りの縁(t2)が最も大きくなりますが、その厚さは、図1に示した式で求めることができます。
絞り加工では、この板厚増加を考慮してクリアランスを決める場合と、絞り側壁の品質面から決める場合があります。
【図2】に示したものが、絞り状態を考慮したクリアランスの例です。
「しごきなし」として示した部分は、絞り加工に伴って板厚が増加しても、板厚をこすって(このような状態を「しごく」と呼びます)薄くすることなく加工できるクリアランスです。このような状態を普通絞りと呼びます。普通絞りでは、絞りとしてはいい状態といえますが、絞り側壁の板厚が均一でないために絞り製品としては品質的によくないです。
品質面にも配慮してクリアランスを考えたものが「軽いしごき」として示した部分です。通常の絞り加工ではこの範囲の条件で絞りクリアランスを採用しているのが圧倒的に多いです。普通絞りに対しての呼び方としては、「しごき絞り」となります。この条件でも、厳しい品質を求められると難しくなります。
しごき条件をより積極的にしたクリアランスが、「均一な側壁」として示したクリアランスです。絞りの最終工程で採用されることが多いクリアランスです。
絞り加工のクリアランスは初絞りでは大きく設定し、徐々に小さくしていき、最終工程では製品の品質によって「しごき」状態を変化させるのが一般的です。