はじめに
自動車業界では近年、軽量化・安全性向上の世界的な要求の高まりにより、高張力鋼板(ハイテン材)の使用が拡大しています。
高張力鋼板の打ち抜き条件は年々過酷になっており、早期摩耗やチッピングが問題となっています。
そのため、パンチの高寿命化に関心がよせられています。
この課題を解決するために、「皮膜の密着性」、「耐摩耗性」を向上させたコーティングパンチを商品化しました。
このコーティングパンチ・改良品は従来品に比べ大幅に寿命が向上しています。
コーティングパンチ改良品の特長
コーティング皮膜の密着性の向上
皮膜と母材の密着性が強固でないと、優れた皮膜特性を持っていても外部からの応力によって皮膜は早期に剥離します。
そこで皮膜の密着力を評価をするため、ロックウェル硬さ計(Cスケール)を用いた圧痕試験を実施し、皮膜の剥離状態を観察しました。
従来品では膜の剥離、及び亀裂が発生しているのに対し、改良品では剥離が発生せず、皮膜の密着性が向上していることが分かります。(図1)
(図1) 圧痕試験後の観察結果(試験片母材:SKH51)
耐摩耗性の向上
パンチが摩耗する原因の一つとして、被加工材とパンチが凝着することで互いに摩耗する凝着摩耗があげられます。
そこで、耐摩耗性を評価するため、摩擦摩耗試験を実施し、ボールの比摩耗量を測定しました。
今回は試験片(基板)をパンチ、ボールを被加工材と想定し(図2)、ボールの比摩耗量を測定することで耐摩耗性の優劣を確認しています。
従来品と比べ改良品は、ボールの比摩耗量がTiCNコーティングで約26%、HWコートで約60%低減しています。(図3)
また従来品に比べ改良品のほうがボールの摩擦面が小さく(図4)、耐摩耗性が向上している事が分かります。
(図4) 摩擦摩耗試験後のボール摩擦面
980MPa級ハイテン材・打ち抜き寿命試験
p980MPa級ハイテン材で打ち抜き寿命試験を実施し、抜きカスのバリ高さの測定(図5)を行いました。(試験条件:表1)
仮にバリ高さの許容値を50μmとした場合、TiCNコーティング・改良品は、従来品と比較し1.5倍以上のショット数となります。
また40万ショット後のバリ高さを比較するとHWコート・改良品のバリ高さが最も小さく、
今回打ち抜き試験に使用したコーティングパンチの中では最も優れた耐久性を示していることが分かります。
(図5)打ち抜き数に伴うバリ高さの変化
980MPa級ハイテン材・打ち抜き寿命試験後の刃先および側面外観比較
980MPa級ハイテン材の打ち抜き試験後(40万ショット後)の刃先外観を比較すると(図6)、従来品はコーティング膜の剥離、焼付が発生している事が確認できます。またエッジ部のチッピングや摩耗が広範囲にわたり生じています。
一方、TiCNコーティング・改良品の一部においてエッジのチッピングが原因と見られる膜の剥離が確認できるものの、刃先・側面共に焼付が見られず、概ね良好な状態で試験を終えています。
またHWコート・改良品はチッピング、焼付共に観察できず、良好な膜状態を保っている事が確認できます。
これは、WPC®処理により、パンチ刃先の疲労強度が向上したことが寄与したものと考えられます。
(※WPC®処理詳細については、こちらをご参照ください。)
今回の結果より、980MPa級ハイテン材といった難加工材においても改良品が優れた効果を発揮することが確認できました。
(図6)980MPa級ハイテン材の打ち抜き寿命試験後(40万ショット後)の刃先
〔参考〕コーティング・改良品 対象パンチ一覧表
改良品対象パンチ | 材質 | TiCNコーティング 改良品 |
HWコート 改良品 |
改良品対象パンチ | 材質 | TiCNコーティング 改良品 |
HWコート 改良品 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
ショルダーパンチ | SKH51 | ● | ● | 厚板打ち抜き用パンチ | SKH51 | ● | ● |
粉末ハイス鋼 | ● | ● | 粉末ハイス鋼 | ● | ● | ||
ジェクタパンチ | 粉末ハイス鋼 | ● | ● | 厚板打ち抜き用ジェクタパンチ | 粉末ハイス鋼 | ● | ● |
ジェクタパンチ(バネ強化タイプ) | 粉末ハイス鋼 | ● | ● | 厚板打ち抜き用ジェクタパンチ -B寸キープタイプ- |
粉末ハイス鋼 | ● | ● |
ショルダーパンチ-小径タイプ- | SKH51 | ● | テーパヘッドパンチ | SKH51 | ● | ● | |
粉末ハイス鋼 | ● | 粉末ハイス鋼 | ● | ● | |||
ショルダーパンチ-全長ショート- | SKH51 | ● | テーパヘッドジェクタパンチ | SKH51 | ● | ● | |
粉末ハイス鋼 | ● | 粉末ハイス鋼 | ● | ● | |||
欠円シャンクショルダーパンチ | SKH51 | ● | ● | 厚板打ち抜き用 ノック穴付パンチ |
SKH51 | ● | ● |
粉末ハイス鋼 | ● | ● | 粉末ハイス鋼 | ● | ● | ||
欠円シャンクジェクタパンチ | 粉末ハイス鋼 | ● | ● | 厚板打ち抜き用 ノック穴付ジェクタパンチ |
SKH51 | ● | ● |
欠円シャンクジェクタパンチ (バネ強化タイプ) |
粉末ハイス鋼 | ● | ● | タップ付パンチ | SKH51 | ● | ● |
位置決めノック穴付パンチ | SKD11相当 | ● | ● | 粉末ハイス鋼 | ● | ● | |
位置決めノック穴付ジェクタパンチ | SKD11相当 | ● | ● | キー溝付パンチ | SKH51 | ● | ● |
位置決めノック穴付ジェクタパンチ (バネ強化タイプ) |
SKD11相当 | ● | ● | 粉末ハイス鋼 | ● | ● | |
ストレートパンチ | SKH51 | ● | |||||
粉末ハイス鋼 | ● |
※今回の打ち抜き試験では、ISIS 20ton精密プレス・精密順送金型を使用しており、実際の金型ではプレス機の精度、クリアランスの精度・ばらつきなど、さまざまな要因が関係しており、本打ち抜き試験と比較し、早期における摩耗が見られる事が想定されます。 参考データとしてご活用ください。