炭素鋼のオーステナイト状態から急冷却をした場合にはどのような変化が起こるのでしょうか?その変化は、冷却の速度によって変わってきます。急冷却するときの速度のことを冷却速度と言います。冷却速度は、冷却する液体の温度や熱伝導率によって変わります。
例えば、水道水に冷やす場合と氷の入った水に冷やす場合、お湯で冷やす場合、ドライアイスの入ったアルコールに冷やす場合では冷却速度が違ってくるということが理解できると思います。
冷却速度の差によって以下のような組織の変化となります。
<冷却速度が非常に遅い場合:例えば空冷>
オーステナイト→パーライト
<冷却速度が遅い場合:例えば加温油冷却>
オーステナイト→微細パーライト[ソルバイト(Sorbite)とも呼ぶ]
<冷却速度が早い場合:例えばお湯冷却>
オーステナイト→トルースタイト(Troostite)
<冷却速度が十分に速い場合:例えば冷却水冷却>
オーステナイト→マルテンサイト(Martensite)
マルテンサイトは、パーライトとは全く異なる外観の組織であり、また結晶構造もパーライトとは異なる組織です。
マルテンサイトには下記の重要な特性を有しています。
- (1)
- 硬度が極めて高い。ロックウエル硬さで50~58HRCにもなります。
(パーライトは12HRC程度) - (2)
- 耐衝撃性が低く、もろい。
硬度が高くなる特長を利用したいがために、炭素鋼を加熱してオーステナイトとし、それを急冷却してマルテンサイトを得る操作のことを「焼き入れ(Quenching)」と呼びます。
金型に使用される炭素鋼は、磨耗や凹みを防止するために硬度が高いことが必要ですので焼き入れをして使用される場合が多いです。
マルテンサイトは、もう一度温度を上げていけばオーステナイトに戻ります。さらにゆっくりと冷却した場合にはパーライトに戻ってしまいます。