焼き入れとは、鋼を変態点(800℃以上)に加熱して、炭素を鉄の中に十分に固溶させてから、焼き入れ油や水などの中で急速に冷却して、炭素が過飽和に固溶した状態のまま常温に移行させる操作の熱処理です。通常、炭素鋼や合金鋼などの機械構造用鋼に適用されます。
従来の焼入れは、加熱炉中で800℃以上(鋼種によって異なります)にワーク全体を加熱して、急冷する操作ですが、冷却速度が仕上がりの硬さを左右します。
これに対して表面焼入れは、ワーク表面の温度を変態点以上にまで急速に加熱し、内部温度が上昇する前に、急冷して表面だけを硬化(マルテンサイト組織にする)させる熱処理方法です。【表1】に、表面焼入れの種類とその内容を示します。
【表1】表面焼入れの種類と内容
|
これらのうち、加熱速度の速いものはおよそ、[1] レーザー加熱105 ℃/秒以上、[2] 電子ビーム加熱104 ℃/秒以上、[3] 高周波加熱102 ℃/秒以上、[4] 加熱炉1〜10 ℃/秒の順で、従来型の加熱炉方式に較べると雲泥の差があります。
炎焼入れは、ガスバーナーから噴出させた燃焼炎によって鋼表面を急速加熱して焼き入れ硬化させます。通常アセチレン、プロパン、都市ガスなどと酸素との混合ガスが使われ、火炎焼入れ、フレームハードニングなどとも呼ばれています。しかし表面の温度制御が困難なため、量産品には採用されていません。
高周波焼き入れは、円筒状に巻いた高周波コイルに通電して、鋼の表面を急速加熱して焼入れするもので、シャフトや歯車などの量産用に適用されています。周波数を高くすると鋼の表面の硬化層を薄く、周波数を低くすると硬化層を厚くすることができます。
電子ビーム焼入れは、電子ビームによって加熱されるため当然真空中で行われます。そのために真空槽の大きさの制約を受けます。冷却剤は用いず自己冷却によります。
レーザー焼入れは、炭酸ガスレーザーなどのレーザー光の高密度のエネルギーを局部的に集中できますので、極めて局部表面の焼入れが可能です。大気中でも可能なためラインに組み込んで、自動車部品や工具などを短時間・連続的に加工されています。