プラスチック成形金型やプレス金型に用いられている金属の大半は、炭素鋼とその合金です。炭素鋼のことを正確に理解しておかないと、これから金型設計をしようとする若い技術者の皆さんは、将来問題点にぶつかった場合に困ってしまうでしょう。ということで、今回から炭素鋼の知識を再確認する講座を連載することにしました。
炭素鋼は、鉄(Fe, Ferite)と炭素(C,Carbon)の合金です。炭素鋼は、Carbon steelと英訳されます。もっと詳しく説明すれば、炭素鋼は炭素量が2%程度以下の場合となります。それ以上の炭素量を含む場合には鋳鉄(Cast iron)と呼ばれています。
炭素鋼の炭素含有量によって、強度や焼き入れ性が大きく左右されます。炭素含有量が多いほど、一般に強度は強くなり、焼き入れした場合の硬度も高くなります。
炭素鋼にはいくつかの特別な温度が知られていて、それらを変態点(へんたいてん)と呼んでいます。炭素鋼の変態点にはA1変態点からA4変態点まであります。
A1変態点 | 723℃ | 焼き入れできる臨界温度 |
A2変態点 | 770℃ | この温度以下で強力なな磁気を帯びる |
A3変態点 | 910℃ | この温度以上でガンマー鉄(γ)組織となる |
A4変態点 | 1400℃ | この温度以上でデルタ鉄(δ)組織となる |
鉄の融点 | 1534℃ |
このような変態点を知ることで、炭素鋼は温度領域で特性が変化することが理解できると思います。
マグネットに磁力で着くためには、A2変態点よりも下の温度でないといけませんので、 例えば800℃の炭素鋼に磁石を近づけても磁力によって着くことはありません。(もっとも800℃であればオレンジ色で高温ですから通常は磁石を近づけることはないと思われますが)
また、焼き入れをするためには原則として723℃以上の温度から水等へ急冷却しないと焼き入れされて硬度が上がりません。例えば、500℃に加熱した炭素鋼を急冷却しても絶対に焼き入れはされませんから硬度も上がらないということになります。
炭素鋼を1534℃以上にするとどうなるか?そうすると鉄の融点を越えていますから 固体から液体へと層変化します、つまり液体となって鉄は流動することになります。そうすれば鋳型へ流し込んで鋳造することができるという訳です。