金属イオン封鎖剤
水は、カルシウムCaやマグネシウムMgなどの金属イオンを含有しており、その量が多いと石鹸の泡立ちを妨害して洗浄効果を妨げることは、よく知られております。工業的な洗浄においても、これらのイオンはアルカリと反応して不溶性塩となるので有害であります。
これらの金属イオンを不活性にして洗浄効果を高めるものを金属イオン封鎖剤といいますが、次のようなものがあります。
(1)無機系イオン封鎖剤
各種重合燐酸塩系が主なもので、代表的なものとしてはトリポリ燐酸ソーダで、安価で、洗浄助剤として適当なアルカリ性をもち、CaやMgに対するイオン封鎖性が優れています。しかし、鉄イオンのような三価イオンに対する効果はあまりありません。重合燐酸塩のイオン封鎖剤を【表1】に示します。
【表1】重合燐酸塩100gが封鎖する金属イオンの量(室温・g)
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(2)有機系イオン封鎖剤
この系は、キレートchelate(カニのハサミ)状に金属イオンを取り込んで安定な化合物に変えるので、キレート状金属封鎖剤と呼ばれています。
次のようなものがあります。
■ヒドロキシ・カーボネイト系
クエン酸、グリコール酸、グルコン酸やその塩。【表2】にこれらのイオン封鎖量の一例を示しました。
【表2】クエン酸、グルコン酸の金属イオン封鎖量(g)
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■アミノ・カーボネイト系
トリニトリック酢酸、エチレン・ジアミン・テトラ・アセテイト(EDTA)など
■ヒドロキシ・アミノカーボネイト系
ヒドロキシ・エチレン・ジアミン・4酢酸など
つまり、金属イオン封鎖剤は、アルカリ脱脂浴、煮沸脱脂浴、電解洗浄浴などに添加されていて、洗浄水中の金属イオンや、洗浄の結果、金属製品から遊離した汚れとしての金属イオンに、いち早く反応して、安定で不活性な化合物をつくるものであります。
すなわち、洗浄を妨害する金属が浴中に存在するけれども、他のイオンと化合する能力はなくなっており(イオン封鎖されとおり)、洗浄作業を遂行することができるのであります。