表面熱処理
熱処理は、古代より冶金術の中で発展してきた技術です。熱処理の中でも表面に主眼をおいた表面熱処理についてご紹介しましよう。
金型や工具の中には、通常の焼入れ焼き戻し処理では所望の硬度に達しないものがあります。したがって、これらの寿命は短命となります。これを解決する手段として表面熱処理を施します。
表面熱処理のあらまし
表面熱処理とは、JISでは「金属製品の表面に、所要の性質を付与する目的で行う熱処理」とされていますが、【表1】に示しますように、表面焼入れと熱拡散処理に分類できます。いずれも加熱によって表面処理を行うもので、処理物の表面では原子の拡散現象が必ず生じています。
表面焼入れは、表面の必要な箇所だけを加熱するもので、処理層内では原子の拡散現象は生じているが、化学成分は変化しません。
熱拡散処理は全体を加熱しますが、表面から異種原子が侵入して、内部に向かって拡散します。
【表1】表面熱処理の分類
|
一般に金属は固溶体、セラミックスは化合物であります。固溶体とは複数の元素が溶け込みあって単一の相になっています。化合物とは複数の元素が溶け込み合わないで、異質の物質に変化しているものです。
固溶体には2種類あり、一つは相手個体の原子空間に別の原子が入り込んだ「侵入型固溶体」と、もう一つはお互いの原子同士が置き換わった「置換型固溶体」です。
侵入型固溶体を形成するための侵入原子は、十分に小さいものであることが必要で、窒素や炭素など非金属元素です。置換型固溶体は両元素とも金属で生成されます。
金属に非金属が拡散して化合物を形成します。例えば、チタン(Ti)に酸素(O)が拡散して酸化チタン(TiO2)、炭素(C)であれば炭化チタン(TiC)が生成されます。