からくり治具
- 倍力メカニズムに利用される「てこ」を連結させて「複式てこ」として応用する場合を解説します。これは単純なシーソー型の法則による倍力作用と、力の方向を変える変向作用を同時に実現することが出来ます。 【図1】−a)は、複式てこ方式の倍力メカニズムの解説図です。腕の長さの比と力の釣り合いの関係から倍力(F)の式が導かれます。 【図1】−b)は、複式てこ方式を応用した簡易治具(道具):ブロックホルダです。レンガやブロックなどの四角形の重量物を効率よく運ぶ道具に利用されます。
- 倍力機構の最もシンプルな形は遊園地にあるシーソー型です。この単純形では倍力メカニズムは支点から力が働く点までの距離(腕の長さ)の比で決まります(【図1】)。シーソー型の応用例は瓶ビールの栓抜きが挙げられます。 ベルクランクとは、シーソー型の倍力機構が曲がった形状ものです。倍力メカニズムはシーソー型と同じ法則ですが、クランクが曲がっているため、腕の長さを力の作用方向に対して垂直にとるために変化してきます(【図2】-a))。ベルクランクは、大工道具の「釘抜き」に全く同じ形状で利用されています。
- ここでは、ピストンークランク機構を基本構造とするプレス機の倍力機構の例を解説します。 下図の【a】がプレス機の概略図です。『クランクOA』には偏心ディスクが用いられ、回転中心Oよりも下にディスク中心(重心)が来たときに、偏心ディスクの重量がプレス加工に作用するようにしたものです。 【b】は【a】のプレス機をスケルトン法で表現したものです。この【b】の『節A』における力のベクトル成分と、プレス機の加工点『B』における力のベクトル成分の比較から、倍力作用がえられることが分かります。偏心ディスクを用いることで、プレス機の下死点近傍(プレス加工エリア)で『節A』に作用する『接線力F0』を大きくさせ、その力をピストンにより垂直方向に変向して『プレス力FP』を形成します。
- 小さな力で大きな力の作用が得られる機構を倍力機構と呼びます。この倍力機構を構成する機械要素には、リンク、てこ、ねじ、くさび、ギヤ、滑車などがあります。ロボットコンテスト(通称:ロボコン)の軽量アームには、単純な機構で倍力効果が得られるリンク機構が良く用いられています。 また、重量物を持ち上げるのにてこを使用するのも倍力機構の応用例です。この場合は、重量物を小さな力で持ち上げることができますが、重量物の移動距離に較べて長い距離を持ち上げなければならなくなります。 このように、倍力機構を用いても仕事量(物体を移動させる力と移動させた距離の積)は変わりません。第92回では、リンク機構を応用した倍力機構を紹介します。 4節回転連鎖のリンク機構(【図1】-a))で、節Aでの力のベクトルを考えてみます。 【図1】-b)は、倍力作用の効果が大きく得られるリンク機構の配置図です。 【図1】-c)は、倍力作用の効果がわずかなリンク機構の配置図です。 両者を『節A』での力のベクトル成分の比較で解説します。
- 回転軸が同一平面にあり、その2軸の成す角度が90度以上の機構の場合に、コイルばねを用いて2軸を連結させ、原動軸の回転を従属軸に伝えることができます(【図1】参照)。 このコイルばねを用いた連結—変向機構は、従動軸側の角度が90度以上の範囲である程度自由に変更できるため、伝達角度のフレキシビリティ性を利用して、対象製品のランク分けや組付け調整を要する機構などに応用できます。 多機種化対応を行う場合の従属軸側の軸の連結方式の例を【図2】に示しました。
- 原動体の力を従動体に伝える場合に、機構設計上の配置や大きさなどの制約を解消させる機構要素として変向機構があります。これは原動体からの力や運動の方向をそのまま利用せず、向きを変える機構のことです。ここでは2回に分けて代表的な変向機構を紹介します。 (1)ベルクランクを用いた変向機構 【図1】は90度のベルクランクで同一平面にある2個のリンクの運動方向を変更させた例です。 ここでベルクランクとは、2個のリンクを同一平面内である角度で連結させた連結部品のことです。図1では原動体(2.)の上下往復運動を従動体(3.)の水平往復運動に変向した例です。 【図2】は自動車のエンジン部に採用されている変向機構(クランク)です。
- 欠歯歯車を用いた間けつ運動機構では、従動軸側が原動軸からの力を受けて間けつ運動した後、回転せず停止した状態のままとなるよう錠止機構(爪やフックなど)を持たせます。ここでは、摩擦車を用いることで制動機構のない簡便な間けつ運動用「からくり治具の素」を紹介します。
- 等速で回転している原動軸から伝わる運動を、周期的な始動と停止運動を行う間けつ運動に変換させるための「からくり治具の素」を解説します。
- 回転運動を左右方向の揺動運動に変換させる「からくり治具の素」を紹介します。 【図1】はその代表機構図です。この機構を用いて、基本的な機構設計を解説します。 リンク機構において0軸(駆動軸)を中心に回転するクランク(1)と、もう1方の回転軸0' 軸を中心として揺動するリンク(3)とを連結リンク(2)で連結させると、0軸側のクランクの1回転に対してリンク(3)が左右に揺動運動を行ないます。このリンク(3)の揺動範囲(A点〜B点)はクランク(1)と連結リンク(2)が1直線状に重なった位置で決まってきます。 【図1】では、a点で2部品が直線状になり、揺動するリンク(3)は右端位置A点に移動した後に反転運動に変わる。またb点で再度2部品は直線状に並びB点が決まってきます。
- 回転運動を回転軸に垂直方向に直線運動変換し、その運動がもつ力を増大させる倍力機構の「からくり治具の素」を紹介します。 【図1】がその機構図です。 応用例 接着剤膜厚の均一化のプレス機構 印刷用プレス機構 平坦度修正機構 標準部品の選定のアドバイス 【図1】の部品ではシャフト(30度台形ねじ、左右ねじ)(1)、ナット(2)、プレス板(3)、リンク(4)、ナックルジョイント(5)、ハンドル(7)が標準部品で構成できます。
- 回転→直線変換機構の代表的な機械要素にカムがあります。カムの応用例について紹介します。 カムの優れた特徴は下記です。 カムの軌跡を伝達される出力端で、速度・加速度・躍動などの運動特性を任意に実現できる。 リンク機構との組合せでシンプルな構造で小型・軽量・高剛性の機構が実現できる。 複数の動作をオーバーラップして制御可能なため、全体のサイクルタイムを短くできる。 信頼性が高い 以上の特徴から、応用例では、高速端子圧入機の圧入機構や自動車エンジンの給排気弁の高速で複雑なタイミング制御(【写真1】)に採用されています。【写真1】では板カムをリンク機構で変位拡大させ、高速応答性を保証させるために、ジャンピング防止用バネがセットされています。
- 回転運動はねじにより直線運動に変換できます。ここではねじの構造を工夫することで直線運動を多様に制御できる「からくり治具の素」を紹介します。ここでは「おねじ」と「めねじ」をカムと考えて利用しています。 【図1】は1本の送りねじシャフトに2個の逆ねじを持たせた「からくり治具の素」の機構図です。 右端のハンドルを回転させると、逆方向の2つのねじと対をなす2個のめねじ側のスライドブロックが反対方向に直線運動します。ハンドル1回転で2倍のピッチの移動を生む倍速機構としても応用できます。
- クランク回転を直線変換し、その直線運動のストロークを2倍に増長させる「からくり治具の素」を紹介します。 【図1】がその機構図です。 構造は、「回転→直線変換機構1(からくり治具の素)」の標準的なスライダ・クランク機構のスライダを歯車に置き換え、さらに、スライダのガイド構造を固定ラックと可動ラック構造に変えたもの。原動軸側のクランク運動が歯車に伝達され、この歯車が固定ラック上を回転転動するストローク(L)の2倍のストローク(2L)を歯車の上部に設けた可動ラックが移動します。
- 前回ではスライダ・クランク機構の応用として、スライダのしゅう動ストロークの調節が可能な、多機種化の対応性を持つ機構例を紹介しました。ここでは、スライダ・クランク機構のロッド/スライダ部が簡単に交換可能な構造の「からくり治具の素」を紹介します。 【図】がロッド/スライダ部の交換が可能な機構図です。ロッド先端にクランクの回転端のヒンジピンに簡単に連結ができるU字型フックを製作したものです。 (1)応用例 スライダ部に加工ユニットを連結させ多機種化対応をする簡易自動機や治具などで、外段取りで加工ユニットを準備した後にスライダ部の交換を行い、機種切り替えロスを短くするなど。
- からくり治具の素である運動機構のメカニズムは、駆動エネルギーを運動制御に変えるメカニズムで、運動の伝達と動力の伝達の2つの機能を持っています。1つの「からくり治具の素」は、その強度や材料を適切に選定することで、加工用にも制御用にも利用できます。 からくり治具の素が作り出す運動の種類は下記が挙げられます。