金属の引っ張り試験のように、金属試験片の両端を引っ張るとやがて破断します。これを引っ張り強さといいますが、ある環境中において、この引っ張り強さ以下の応力でも、それが加わった状態が持続すると、やがて金属に割れが生じます。この腐食現象を応力腐食割れといっています。応力腐食割れを起す応力は引っ張り応力で、使用中にかかる応力と加工時に生じた内部応力とがあります。
【図1】に応力腐食割れの模式図を示しました。金属材料表面上に腐食点が生じた腐食が穏やかに進行します。この材料に金属内部の引っ張り応力か、引っ張り外部応力が付加され、腐食先端部と割れ先端部は鋭利であり、進行方向は屈曲します。この割れには、結晶粒界と結晶内の割れがあります。
応力腐食割れは、金属材料と特定の環境とによって起こり、代表的な例を【表1】に示します。このように引っ張り応力が加わっていても腐食環境が一致しないと腐食しませんので、かなり限定された環境の腐食例といえるでしょう。
応力腐食割れの例としては、昔から機関車ボイラーのリベット周辺に割れが生じ腐食しましたが、これは炭素鋼と腐食防止のために缶水に添加したNaOH水溶液高温水の組み合わせによる応力腐食割れであることが分かりました。
また、真鍮の季節割れとして有名な、銃弾の黄銅製薬きょうがモンスーン時期に多量に割れた例などは、黄銅系とNH3等の組み合わせで、冷間加工で成型された薬きょうが大気中の湿気、酸素、亜硫酸ガス、アンモニアなどの作用による応力腐食割れであります。
オーステナイト系ステンレス鋼は塩化物水溶液や海水と応力腐食割れを起こしやすいので、加工成形後熱処理などによる応力除去を行なったり、フェライト系とオーステナイト系の両方の性質をもつ二相系ステンレス鋼などが用いられます。
【表1】応力腐食割れを生じる金属と環境
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