通常、社会的に金属の腐食が問題になるのは、酸やアルカリという厳しい環境ではなく、人間が生存可能な空気中の水分(湿度)、気温、稀に腐食性ガス、浮遊する塵芥や、溶存酸素、消毒用の遊離塩素、Ca・Mgなどの水中含有物質によることが多いのです。
金属腐食の一般論として、腐食環境と腐食形態について考えてみましょう。いま、研磨した金属を腐食環境に投入すると、金属の種類と腐食環境の種類により、金属表面には次のような変化が現れます。
(1)表面に変化なし
これはその環境内で、表面に全く腐食生成物ができないか、もしあったとしてもナノメーター単位の非常に薄い吸着層で、腐食はこれ以上進みません。
(2)変色するがそれ以上進まない
これは腐食生成物がある程度厚くなったために肉眼で見分けられるようになったためで、それが緻密に表面を覆っているため、腐食の進行はこれ以上進みません。このような変色は、皮膜が数十ナノメーターの厚さになったためです。
(3)荒い錆びを生じて腐食が進行する
金属表面に生成した生成物が表面に密着していないので、常に金属が腐食環境と接触し、腐食は一定の速さで進行します。生じた錆びは、ボロボロと脱落します。
野外で風雨にさらされた軟鋼の腐食状態がこれで、海岸地帯の場合は海塩のためにもっと荒い錆びを発生します。
(4)錆びは生じないが腐食は進む
腐食生成物が環境中に溶解する場合には、錆びは見えないが腐食は進行し、金属は消耗していきます。酸の中に金属を浸した場合がこれにあたります。
このように、腐食の進行の仕方は様々ですが、腐食の形態を大きく分けると、金属の全面がほぼ一様に腐食していく「全面腐食」と、腐食が局部的に集中して起きる「局部腐食」に分けることができます。
しかし、厳密には、金属全面が一様に腐食していくということは、金属の組成や組織が一様に同一であり、腐食環境も同様でなければ起こり得ないことでありますから、実際には多かれ少なかれ部分的には局部腐食が起こっています。
水中での鉄や高温ガス中での酸化などでは、ほぼ全面が一様な腐食を受けますので、近似的にこれらを全面腐食と呼んでいます。一様に侵食される腐食の強さを表す指標として「侵食度」25mg/dm2/day(1日に1dm2当り25mg腐食)や0.12mm/y(1年間に0.12mm厚さの腐食)などが使われています。