レンズ、導光板、導光体、透明ケース等の成形品ではキャビティ表面の面粗さによって、光透過率、光複屈折率などの光学特性は大きく左右されます。キャビティ表面の面粗さを改良するためには、刃物による切削加工条件、砥石による研削加工条件等の加工プロセスの制御によってもある程度は改善が図られますが、表面粗さが1ミクロンメートル級以下の高精度が求められる場合には、キャビティの鋼材自身の選択から考慮をしないと所望の面粗さを獲得することは困難です。
キャビティ用の鋼材は、炭素工具鋼をベースとした合金工具鋼が使用されますが、鋼材を精錬するプロセスにおいて、鋼材中に炭化物や酸化物などの不純物が混入したり、ピンホールを生ずる危険性が常にはらんでいます。
鏡面仕上げをする場合には、これらの不純物等の微細な内部欠陥が磨き面に現れてしまいますと、それまで磨き仕上げをしていた工数は無駄になってしまい、補修も事実上は不可能になり、多大な時間のロスと出費を余儀なくされてしまいます。
したがいまして、鏡面仕上げを当初より所望する場合には、鋼材の選定から入らないとなりません。
表面粗さが0.1~0.005ミクロン級の磨きを必要とする場合には、下記の特性を満足する鋼材を選定する必要があります。
- 金属組織が均一で安定していること
- 清浄度の高いこと(炭化物、酸化物、ピンホール等の発生が極小であること)
- 純度の高いこと
- 特殊溶解プロセスを経ていること
- 硬度が高いこと
- これは数字リストです。
析出硬化鋼であるマルエージング鋼は、上記の特性を満たす鏡面仕上げには最適な鋼材であると言えます。硬度は50~56HRC程度で、表面粗さは0.005ミクロン程度まで対応ができます。
ただし、鋼材のコストは高くなります。しかし、鋼材のコストと精密仕上げ磨きのコストを考慮すれば、あるレベル以上の鏡面を求める際には、迷わずこの種の鋼材を採用する判断が必要になります。
磨き加工方法は奥深いものがありますが、砥粒、研磨油剤、加工条件、温度などのノウハウを活用して所望の形状に磨き上げます。