エジェクタピンは、プラスチック射出成形金型では成形品を金型から取り外すために必ずといって良いほど使われている基本部品になります。射出成形金型から成形品を取り出すときの成形品の温度は、一般的には50~300℃ぐらいの温度になっているので、人間が手作業で成形品を取り出す作業は火傷を負ってしまいますから危険です。また、成形品は、樹脂の成形収縮によって金型の可動側(一般的には)に収縮の力で強固に抱きついていますから、これらの力に負けない力で成形品を取り出すことが必要になります。そこで、鋼鉄製のエジェクタピンによって安全に成形品を平易に取り外すことができるようになります。
当初のエジェクタピンは、鋼鉄製のシャフトを用い、ピンを固定する部分のツバ部は溶接やはめ込み固定、鍛造でツバ形状に変形させる等の方法で作られていました。しかし、これらの方法で作られたピンは、交換時の互換性がなく、工作費用も高くなります。そこで、同一形状のピンを標準化して大量生産することで互換性がある安価なエジェクタピンを作る工法が開発されて今日に至っています。
エジェクタピンの材質は、当初はSKS3(合金工具鋼)が多用されていましたが、折損強度が低いため、SKD61(熱間工具鋼)で作られるようになりました。さらに、強度を上げかつ耐磨耗性を良好にするためにSKH5(高速度鋼)が採用されました。
耐食性を上げるためにステンレス鋼を採用したり、冷却効率を上げるために銅合金を用いるなど特殊用途ピンも使用されています。
エジェクタピンの形状は、ストレートエジェクタピンの場合には、ストレート部(摺動部)とストレート部(摺動しない部分)とツバ部から構成されるのが一般的です。ストレート部(摺動部)は、コアの取り付け穴に挿入され、毎ショット摩擦移動をしますので、精度よく機械工作され表面あらさも良好に仕上げる必要があります。ピンの円周方向の寸法が精度よく仕上がっていないと、クリアランスに溶けた樹脂が入り込んでバリが発生してしまいますし、クリアランスが適切に維持できないとピンの動きが悪くなり、かじりを生じてピンが折損することがあります。耐磨耗性を改善するために摺動部は焼き入れを施します。
一方、ストレート部(摺動しない部分)は、ツバ部との連携をする部分になります。ツバ部根元は急激な段差形状になりますので、ピンに作用する圧縮応力や曲げ応力、ねじりによってコーナー部根元には応力が集中します。そこで、ツバ部根元や近傍では応力を開放するために焼きなましをしたりする場合があります。表面硬度は低下しても衝撃による破壊の危険性を回避することができるようになります。
エジェクタピンの折損強度を改善するためには段付きピン形状にすることも優良な手段です。根元を太くすることで座屈強度は大きく改善されます。