射出成形における3点セットは、計量や射出状態の良し悪しを決める重要な部品である。
本記事は以下のような方におすすめする。
- 3点セットの役割がよく分からない方
- 3点セットでよくあるトラブルと対策を知りたい方
- 3点セットの管理ポイントを知りたい方
3点セットの役割と特徴
まず、射出成形加工における3点セットとは、加熱筒内のスクリュー先端についている部品のことである。
(1)3点セットの役割
3点セットの役割とは、計量・射出動作を行うことである。
3点セットの部品構成は、以下3つである。
- スクリューヘッド
スクリューの最先端に取り付けられる部品で、円錐型の尖った形状をしている。
取り付けネジは、逆ネジになっている。 - 逆止リング(チェックリング)
計量・射出に連動し、前後に動く。射出成形における重要部品である。
- スペーサー(シールリング)
スクリューヘッドとスクリューの連結部に使用される部品である。
3点セットのうち、スクリューヘッドとスペーサーは、スクリューに固定されており、スクリューヘッドとスペーサーの間に挟まれる逆止リングは、自在に動く構造になっている。計量・射出に合わせて、逆止リングが前後に移動する。
(2)3点セットの動き方
点セットは、スクリューの前進後退に合わせて動く。
- 計量時の3点セットの動き
計量時、スクリューは回転しながら、後方へ移動する。スクリュー回転と同時に、逆止リングは前方に移動する。3点セットの隙間から、樹脂は加熱筒前方に送られる。
- 射出時の3点セットの動き
射出時、スクリューは前方に移動する。スクリューの移動に合わせて、逆止リングは、後方へ移動する。
(3)逆止リングの比較(爪ありと爪なしの違い)
逆止リングには、爪ありと爪なしの2タイプがあり、以下の特徴がある。
爪ありタイプ逆止リング:スクリュー回転に連動して、共回りする。
爪なしタイプ逆止リング:スクリュー回転時、スクリューと一緒に回らず、そのまま後方に移動する。
- 爪ありタイプ逆止リングの解説
成形機メーカーの一般的な仕様は、爪ありタイプである。スクリュー回転に連動して共回りし、溶融混練能力が高いので、混練不足に起因する不良を予防できる。一般的な原料には、爪ありタイプの逆止リングが適している。
- 爪なしタイプ逆止リングの解説
ガラス繊維を含有したり、ガスが発生する樹脂を使用する時は、爪なしタイプの逆止リングが適している。ガラス含有の原料やガスの発生が多い原料に爪ありタイプを使用すると、スクリュー回転に合わせて爪あり逆止リングは共回りし、加熱筒内側に大きなダメージを与えてしまう可能性がある。加熱筒の内側が傷つくと、バックフローの原因になり、交換修理費が高額になる可能性もある。
3点セットは、予備部品を常に1セット持つべき
成形中に、スクリューヘッドが折れたり、逆止リングが破損することにより、射出量が安定しなくなったり、射出圧が立たなくなるなど、成形できない状態となってしまう。予備があれば、交換後すぐに復旧・稼働できるが、予備が無ければ停止せざるを得なくなる。3点セットは、常に予備部品をストックしておくことが望ましい。
3点セットのよくあるトラブルと対策
よくあるトラブル(1)練り込み異物
スクリュー先端部は、射出時に高い射出圧力がかかる。さらに、3点セットは複雑な形状のため、滞留した樹脂が炭化しやすい。炭化した樹脂は、剥がれ落ち、成形品に練り込まれる場合がある。練り込み異物の原因の多くは、このスクリュー先端部、ノズル、スクリュー本体のフライト部の炭化であり、以下の方法が有効である。
【対策】
- 予備のノズル・3点セットに交換
- パージ
- パージ材によるパージ
- シリンダー清掃
ただし、以下のように別の要因も考えられるので総合的な検討が重要となる。
- 原料メーカー製造時に、原料自体にすでに練り込まれている
- 原料輸送経路からの異物の混入
よくあるトラブル(2)逆止リング破損
成形中に3点セットが破損することがあり、主な原因は、以下の2つである。
- 金属片の混入
- 材料切れの空転
- 金属片の混入
装置からのボルトナットの脱落、粉砕刃の一部が混入することで、加熱筒内の3点セットが破損することがある。原料と一緒に計量されてしまうので、スクリューのフライト部、3点セットを、金属片が傷つけてしまう可能性がある。特に逆止リングが傷つくと、逆止リングとスペーサーの間に隙間ができてしまい、射出時に隙間から樹脂がバックフローし、成形品は、ショート、ヒケ、重量下限、寸法規格外になってしまう可能性がある。
【対策】
破損した3点セットは、予備品と交換することで復旧可能である。
- 原料切れの空転
成形中に原料切れを起こし、そのままスクリュー回転を続けると、逆止リングが傷ついてしまう。特に600tクラス以上の大型成形機は、逆止リングも大きく、重量も重くなり、スクリューを高回転で空転させると、大きなダメージを負ってしまう。
【対策】
原料切れの空転を予防するには、成形中のサイクル監視を設定することが重要である。1サイクルにおける計量時間を毎ショット監視することで、原料切れを直ちに検知し成形停止することができる。
よくあるトラブル(3)スクリューヘッド折れ
成形中にスクリューヘッドが折れることがあり、主な原因は以下の2つである。
- 冷間起動
- 経年劣化
- 冷間起動
加熱筒は、バンドヒーターからの熱で温度管理をしている。立ち上げ前に加熱筒昇温スタートし、表面温度が設定温度に達したとしても、内部のスクリューはまだ十分に昇温が完了していないことがある。十分に温度が上がっていない状態で、スクリューを回転すると、先端のスクリューヘッドネジ部に過負荷がかかり、折れてしまう場合がある。
【対策】
加熱筒の昇温時は、冷間起動防止タイマーを用いて、昇温後一定時間経過するまでは、スクリュー動作を禁止することで予防可能である。
- スクリューヘッドの経年劣化
スクリューヘッドの取り付けは、ねじ込み式であるため、経年により金属疲労する。経年劣化によるスクリューヘッド折れ時は、成形品がショートしたり、最少クッション位置がばらつく。
【対策】
スクリューヘッド折れは、予備品と交換することで改善可能である。
よくあるトラブル(4)逆止リング摩耗
ガラス含有原料や、ガスの強い原料、エンプラ、スーパーエンプラなどの強度の高い樹脂を使用することで、逆止リングは摩耗する。
【対策】
延命するには、耐蝕耐摩耗素材や、コーティングがされた3点セットが効果的である。消耗品と割り切って、予備部品をストックして都度交換していくことがポイントである。
3点セットの取り扱いポイント
3セットの取り扱いによって、その消耗度は大きく変わってくる。以下に挙げる3つがポイントになる。
(1)負荷の小さい成形
成形条件の設定において、成形機に負荷の少ない成形条件にする。
- 射出圧力
- スクリュー回転速度
- 背圧 など
無駄に高い数値設定は機械の寿命を短くする。
(2)停止処置
成形停止時は、適正な処置を行う。ガスの発生しやすい原料や、強い顔料、ガラス含有、強度の強い原料などは、次回生産時を見越して、パージ材に置き換えたり、保温設定で休止させる。
(3)3点セットの在庫管理
3点セットのトラブルは、成形停止になってしまう大きな事象である。予備部品の管理は特に気を使おう。特に、小径・特注品・コーティング品などは、納期がかかる。予備部品があれば成形再開が早いため、最低各一つずつの在庫を持つのが望ましい姿である。
まとめ
3点セットの役割と特徴、よくあるトラブルと対策、取り扱いポイントについて解説してきた。射出成形における3点セットは、射出の要で、3点セットのトラブルは、そのまま成形停止になる重大なものが多いため、予備部品を常にストックしておき、迅速に復旧対応を心がけよう。