エンジニアリング・プラスチック(エンプラ)やスーパー・エンプラの中には、キャビティの表面温度が100℃を超える種類の樹脂が増えてきています。
キャビティの表面温度が90℃ぐらいを超えてしまいますと、水(お湯)による温度調節では通常、昇温と温度保持が困難になります。
一般には、下記の手段が採用されます。
(1)油温度調節
油による温度調節は、型板やキャビティに設けられた流路に、循環ポンプから吐出された油が、ジョイントホース経由にて循環することにより、温度を一定に保ちます。一旦、設定温度まで温度が上がってしまいますと、比較的安定した温度維持が可能です。
しかし、温度の立ち上がりには時間を必要とする短所があります。
また、油の取扱いは、やけどの危険性があり、さらに油の後処理が面倒であるといった点も懸念されます。
(2)電気ヒータ
電気ヒータ(カートリッジヒータ)による温度調節は、温度センサ(熱電対等)と併用することにより、温度を一定に保ちます。熱容量が大きいので温度の立ち上がりが早い利点があります。
しかし、ヒータ周辺の温度は高く、ヒータから離れた場所では温度が低くなり、温度分布を均一に保つことが困難になります。
また、ヒータは、寿命がありますので、定期的に交換が必要になります。
ヒータの取り付けは、取り付け孔とのクリアランスが重要になります。クリアランスが大きすぎますと、ヒータが空焚き状態になり、寿命を縮めてしまいます。
ミスミ カートリッジヒータ用金型温度調節コントローラは、PID制御方式でヒータの温度調節が可能ですので、オン−オフ制御形式のコントローラよりも極めて安定した温度制御が可能になります。
温度制御をより正確に行うためには、射出成形機のプラテンと金型の取付板の間に、断熱板を取り付けることを勧めます。または、型板の周囲にも断熱板を取り付けることもあります。
(3)加圧スチーム温度調節
通常は、水を媒体とする金型の温度調節は、せいぜい85℃が上限でした。しかし、最近は、加圧スチーム(水蒸気)を循環させて140℃程度まで温度制御ができる装置が普及を始めています。この方法によれば、従来の冷却水循環回路と同様に型板やキャビティに流路を設置し、水管ジョイントを接続することで平易に高い温度を得ることができます。
しかし、高温スチームを流しますので、ジョイントホースは耐熱仕様でなければなりません。この点は必ず守らねばなりません。
【表】キャビティ表面温度が高い成形材料の例
プラスチック名 | キャビティ表面温度(℃) |
PPSガラス繊維30% (ポリフェニレンサルファイド) |
130〜150 |
LCPガラス40% (液晶ポリマー) |
70〜110 |
PET (ポリエチレンテレフタレート) |
130〜150 |
PA46 (ポリアミド/46ナイロン) |
80〜120 |
PC (ポリカーボネート) |
80〜120 |
耐熱PLA (耐熱ポリ乳酸) |
110〜120 |
PEEK (ポリエーテルエーテルケトン) |
120〜160 |
PI (ポリイミド) |
170〜200 |
PPS樹脂や液晶ポリマー用の射出成形金型では、キャビティ表面温度を100℃以上に保つ必要がありますので、油による温度調節やカートリッジヒータによる温度調節が必要になります。
市場で普及しているカートリッジヒータの温度調節方法は、電源のオン−オフによって制御する「ON-OFF制御」が多用されています。
「ON-OFF制御」は、簡単なスイッチ切り替え装置で構成されているため、比較的コントローラの価格は安価ですが、キャビティ表面温度の変化が大きく、安定しにくい弱点を持っていました。
キャビティ表面温度が不安定ですと、精密な成形品では収縮状況や寸法、表面の光沢などがばらつく原因となります。
そこで、キャビティ表面温度をできるだけ安定させるためには「PID制御」が推奨されます。
PID制御とは、
- 比例(Proportional)
- 積分(Integal)
- 微分(Derivative)
を応用し、温度が安定するまでの時間を短縮できる制御方式です。
ミスミ「カートリッジヒータ用金型温度調節コントローラ」は、PID制御を採用し、さらにSSR(半導体リレー)を組み合わせることによりさらに設定温度に対する精度を改善しています。
カートリッジヒータは、最大負荷として「三相交流 200V」で10kWまで対応が可能です。
従いまして使用例としては、「三相交流 200V 1kW」のヒータを2本づつ、可動側型板と固定側形板にそれぞれ組み込んで、PID制御により安定したキャビティ表面温度の制御を行うことができます。
断熱板は、射出成形金型の温度を安定化させたり、保温のための省エネルギーを実現するために重要な部品です。エンプラやスーパーエンプラの射出成形では必須の部品として利用されております。
ミスミでは、断熱板を商品ラインナップとして取り扱っておりますが、その用途によって選定をして頂いております。
断熱板の使用方法は、一般に
- 射出成形機のプラテンに固定して使用する場合
- 金型の取付板の後ろに固定して使用する場合
の2通りがあります。
断熱板の選定基準としては、以下の項目があります。
1.耐熱温度
- 推奨使用温度 100℃以下
- 推奨使用温度 180℃以下
- 推奨使用温度 220℃以下
- 推奨使用温度 400℃以下
- 推奨使用温度 500℃以下
2.材質
使用推奨温度と圧縮強さに関係するのが材質です。
材質は、下記のような種類があります。
- 綿布+フェノール樹脂(ベークライト)
- クラフト紙+フェノール樹脂(ベークライト)
- ガラス繊維+けい酸塩バインダー
- ガラス繊維+超耐熱エポキシ樹脂
- ガラス繊維+りん酸塩系バインダー
- ガラス繊維+ほう酸塩系バインダー
アスベスト(石綿)は、健康に害があると考えられておりますので、ミスミでは取り扱っておりません。