ボールベアリングのトラブルの一つに、疲労による寿命がある。このトラブルの見積もり法について、具体的な事例を挙げて、解説する。
ボールベアリング劣化のメカニズム
ボールベアリングの劣化は、回転体の重量などの荷重が、軸受荷重として作用した場合、転動体と内輪外輪の間の摩擦摩耗によって、内輪、外輪がすり減ることによっておこる。回転体の負荷荷重には、作用に仕方によって、図1に示す様に2種類がある。
図1.ボールベアリングに加わる外力
※外輪:固定、ハウジングに固定 内輪:回転、回転軸に固定
荷重方向が変化しないタイプ | 荷重方向が変化するタイプ |
---|---|
回転体の自重(静的)によって軸の回転に対し荷重が常に一方向となる。 | 回転体の不釣り合い(動的)によって軸の回転と共に荷重が回転する。 |
回転軸の回転によって、荷重方向が変化しないタイプとその荷重方向が変化する回転体の不釣り合いを扱う場合である。いずれの場合にも荷重は内輪の転動面と転動体、転動体と外輪の転動面の間の荷重は変化する繰り返し荷重が加わることになる。従って、この変化する荷重による疲労が、ここで発生する。この寿命は、支持する荷重に回転数を乗じた数によって決まり、総回転数として算出することが出来る。ユーザーはボールベアリングの負荷荷重に対して次の2点を考えなければならない。
表1.ボールベアリングに加わる外力
分類 | 内容 | 判定 |
---|---|---|
静的 | 停止、または低速回転における負荷荷重 | 基本静定各荷重 |
動的 | 回転寿命を決める負荷荷重 | 基本動定各荷重 |
ベアリングの負荷荷重、寿命を延ばすには、この両数字の大きなボールベアリングを使用すればよく、設計の際、次の選定を行えばよい。
- ①
- ベアリングの転動体サイズの大型化で、この操作を行った場合、ベアリングの形状は大きくなる
- ②
- 転動体を鋼球からころに変更することで、深溝玉軸受を円筒ころ軸受に変更することに相当する
この負荷荷重のカタログ値の「基本静定格荷重*1」「基本動定格荷重*1」を内径φ20のボールベアリングについて表2に示す。
注記
- *1
- この荷重は、同種、同サイズの転がり軸受でメーカーなどによって異なるので、ユーザーは使用する軸受の数値をカタログなどで入手し、使用すること
表2.ボールベアリングの基本動定格荷重、基本静定格荷重の参考値
種類 | JIS呼び | 内径×外形×幅 | 基本動定各荷重 (kN) |
基本静定各荷重 (kN) |
---|---|---|---|---|
深溝玉軸受 | 6004 | φ20×φ42×12 | 9.85 | 5.05 |
6204 | φ20×φ47×14 | 12.79 | 6.66 | |
6304 | φ20×φ52×15 | 15.9 | 7.89 | |
円筒ころ軸受 | NU204ET | φ20×φ47×14 | 25.69 | 22.64 |
NJ2204ET | φ20×φ52×15 | 29.52 | 27.48 |
軸受の型式の異なる製品の基本動定格荷重、円筒ころ軸受の動定格荷重を比較すれば一目瞭然である。円筒ころ軸受は、深溝軸受の2倍強の動定格荷重を示している。ころによる線接触は、鋼球による点接触よりもはるかに接触応力を緩和する性能が高いことが判る。また、これらの定格荷重の意味するところを表3にまとめておく。
表3.ボールベアリングの基本動定格荷重、基本静定格荷重値の内容
項目 | 内容 |
---|---|
基本静定格荷重 | 停止または極低速の回転時に転動体と外内輪の間に転動体直径の0.0001倍の永久変形を発生させる応力を生じる荷重で、転がり軸受の場合4,200MPa(428kg/mm2)、ころ軸受の場合4,000MPa(408kg/mm2)である |
基本動定格荷重 | 総回転数100万回転において、90%の同形状の転がり軸受において、疲労寿命が発生しない荷重である |
ボールベアリングの選定の際、負荷荷重と寿命を問題にする場合は、この両数字を元にその値を算出しなければならない。ここで、負荷荷重は、基本静定荷重に依存するので、この数値以下で使用しなければならない。負荷荷重は、加わる荷重の種類によって、評価しなければならない。
ボールベアリングに加える静的荷重
静的な負荷荷重を「基本静等価荷重」と呼ぶこととした場合、使用条件によって、経験的に決められた係数で、その荷重の割合を見積る。係数を「S」とした場合、転がり玉軸受、転がりころ軸受のSは次のようになる。ユーザーの関心のある回転体に加えることが出来る荷重である基本静等価荷重は、次のように算出する。
- 基本静等価荷重=基本静定格荷重/係数
表4.基本静等価荷重の係数
S(最小値) | 条件 | |
---|---|---|
転がり玉軸受 | 転がりころ軸受 | |
2 | 3 | 静かな回転(なめらかな回転) |
1 | 1.5 | 普通の回転(なめらかな回転) |
1.5 | 3 | 衝撃荷重 |
軸受に加わる荷重を算出する場合、直角座標系の基準である、半径方向(ラジアル、r方向)と軸方向(アキシャル、a方向)に分解して、支持する荷重を考えなければならない場合がある。この考え方を示す手段が「静等価ラジアル荷重」である。
静等価ラジアル荷重は、次の2式で示され、設計値としてはどちらか大きな数字を静等価ラジアル荷重(Por)として使用する。
- 静等価ラジアル荷重(Por)=0.6 xラジアル荷重(Fr)+0.5 xアキシャル荷重(Fa)
- 静等価ラジアル荷重(Por)=ラジアル荷重(Fr)
ボールベアリングに加える動的荷重
一方の動的問題である、疲れ寿命の総回転数の算出法について次に示す。疲れ寿命は、経験知が実験式に埋め込まれており、以下に示す式で表される。「基本動定格荷重」とユーザーが設計した回転体の形状で決まる「動等価荷重」によってその総回転数を決めることが出来る。この算出を行う際、ユーザーが決める動等価荷重について示すと、このボールベアリングの寿命計算式は実験式であることは、上記したが、この動等価荷重についても経験知とボールベアリングの幾何形状に起因する数値が、埋め込まれているので、これを考慮して決めなければならない。
ボールベアリング疲れ寿命計算式
- 玉軸受:L=(𝐶/𝑃)3 × 106 回転
- ころ軸受:L=(𝐶/𝑃)3 × 1010/3 回転
- L:
- 定格寿命
- C:
- 基本動定格荷重(kgf)
ラジアル軸受:Cr
スラスト軸受:Ca - P:
- 動等価荷重 N(kgf)
ラジアル軸受 Pr
スラスト軸受 Pa
荷重の種類による補正
荷重の種類によってその係数を掛けて軸受に加わる荷重を補正しなければならない。補正表を表5の通り示す。
- 軸受に加わる荷重=(補正係数)x(幾何計算、運動計算より算出される軸受に加わる荷重)
表5.軸受に加わる荷重の補正表
衝撃の種類 | 補正係数 | 機械事例 |
---|---|---|
ほとんど衝撃のない場合 | 1.0~1.2 | 電気機械、工作機械、計器類 |
軽い衝撃のある場合 | 1.2~1.5 | 鉄道車両、自動車、圧延機、金属機械、製紙機械、印刷機械、航空機、繊維機械、電装品、事務機械 |
強い衝撃のある場合 | 1.5~3.0 | 粉砕機、産業機械、建設機械、物揚機械 |
アンギュラ玉軸受の荷重計算
図2.アンギュラ玉軸受の力の作用
軸受が接触角(α)を持つアンギュラ玉軸受および円錐ころ軸受は、ラジアル荷重が作用した場合、その幾何形状からアキシャル方向に分力が発生するこの大きさは次のように算出される。
アキシャル方向の分力(Fa)=0.5 × ラジアル荷重(Fr)/アキシャル荷重係数(Y)
Fa,Frの単位:
N(kgf)
表6にこの計算事例の基本となるアンギュラ玉軸受の力の作用について示す。接触角αが、ラジアル方向の荷重Frから、アキシャル方向の荷重が発生していることが判る。ラジアル荷重、アキシャル荷重を下記の通り算出する。具体的な計算例やX, Yの補正係数の考え方は本項では割愛するが、アキシャル、ラジアル方向に分力して考えれば軸受にかかる荷重を算出できることを理解いただきたい。
表6. アンギュラ玉軸受荷重条件による動等価ラジアル荷重の計算事例
軸受配置 | 荷重条件 | アキシャル荷重 | 動等価ラジアル荷重 |
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