真空環境で使用するボールベアリングについて説明する。真空中で使用する場合のポイントは真空内で使用できる潤滑を実施したうえで、ボールベアリングの動等価荷重の3%以内としなければ、その装置寿命を保証することはできない。
真空用ボールベアリングの構造は、通常の大気中で使用するグリースなどの潤滑剤を用いたボールベアリングと同構造で、潤滑剤として真空に対応可能な潤滑剤とその供給法を採用している。構成部品は外輪、内輪と両者の間に配置する転動体の玉とその保持器で構成される。保持器は転動体を円周方向に整列させる機能を有し、転動体と接触する構造となっている。このボールベアリングは、開放タイプであるが、軸方向の両面に潤滑剤の保持を主な目的として金属板を取り付けシール/シールド型のボールベアリングとしている。真空用の深溝ボールベアリングの基本的な構成は、大気中で使用するボールベアリングとほぼ同じであるが、保持具の構造と固体潤滑剤を供給するスペーサの存在が大気環境で使用するボールベアリングと異なる点である。具体的には固体潤滑剤を供給するスペーサをボールベアリング内の転動体間に仕込んでおり、ボールベアリングの回転で転がり面にこの固体潤滑剤が供給できる構造となっている。
真空用ボールベアリングに使用する潤滑剤は、その蒸気圧によって使用する圧力が決まるが、通常グリース状の潤滑剤は、低圧力の真空には使用しない。潤滑剤の種類と特徴を表1に示す。
表1.真空用固体潤滑剤の種類と特性
分類 | 層状構造物資 | 軟質金属 | 高分子材料 |
---|---|---|---|
潤滑剤 | 二硫化モリブデン グラファイト、窒化ホウ素 |
金、銀、鉛、インジュウム | PTFE(四フッ化エチレン) |
特性 | MOS2は-200~650℃の範囲で使用可 グラファイトは、吸着ガスによって潤滑特性が変化するので注意を要する |
薄膜、複合材の形で使用、Auの摩擦特性は、活性ガスのほか、不活性ガスの影響も受ける。Ag,Hgは常に真空中で使用 | 一般に、高分子材料の摩擦磨耗特性は雰囲気の影響を受けにくい。PTFEは低温でも潤滑性があり、ポリイミド:50~350℃、ポリアミド:室温~250℃の範囲で使用可能 |
二硫化モリブデンに代表される層状の物質、銀に代表される軟質金属とPTFE(ふっ素樹脂)に代表される高分子材料が示されている。二硫化モリブデンは高温で使用するねじなどの潤滑にも使用されている真空の潤滑剤として代表的な物質である。 表2にグリース潤滑剤、固体潤滑剤およびセラミックスを用いた真空用ボールベアリングの一覧表を示す。
表2.真空用ベアリングの潤滑剤と特徴/用途
潤滑剤 | 特徴 | 用途 | 構造*1 | |
---|---|---|---|---|
グリース 潤滑 |
ふっ素系 グリース |
真空環境に適したKDLグリース(ふっ素系)を適量封入している。また、発塵量が少なくクリーン環境にも適応する。グリース潤滑で、潤滑信頼性にも優れている。ただし、低い圧力環境では使用できない。 | 半導体製造装置、液晶製造装置、搬送ロボット、真空ポンプ | |
樹脂 | 固体潤滑材と ふっ素樹脂 |
固体潤滑剤とふっ素系高分子による固体潤滑ベアリングである。保持器材料には、耐熱性に優れたPEEK樹脂(ポリエーテルエーテルケトン)をベースにした樹脂を用い、高温において安定した性能を発揮する。 | 紙パック製造装置、 液晶洗浄装置 |
|
固体潤滑 (無機材料) |
二硫化モリブデン潤滑 | 二硫化モリブデン被膜による固体潤滑ベアリングである。耐荷重性、潤滑性においては高分子潤滑よりも優れている。 | 半導体製造装置、回転炉、液晶製造装置、真空蒸着装置、ターボ分子ポンプ | |
2硫化タングスデン | 二硫化タングステンを用いた固体潤滑ベアリングである。耐熱性と耐荷重性に優れている。保持器を用いず、二硫化タングステンを含有したセパレータによって玉を等間隔に保持している。 | 半導体製造装置、液晶製造装置、真空蒸着装置、PDP製造装置 | ||
銀 (イオンプレーティング) |
転動体に施した銀イオンプレーティングによる固体潤滑ベアリングである。放出ガスが少ないので、超高真空用途に適している。 | 半導体製造装置、液晶製造装置、真空蒸着装置、真空モータ、医療機器 | ||
材料 | セラミックス (窒化珪素) |
転動体にセラミックスを用い、外輪内輪にSUS440Cを使用。転動体および外内輪共にセラミックスを使用。超高真空、高温環境の使用に適している。 | 半導体製造装置、ターボ分子ポンプ | - |
画像の出所
- *1
- 名古屋ベアリング株式会社「特殊環境用ベアリング:真空用ベアリング」
セラミックスのボールベアリングが低い圧力で使用されている(表中最下段)。このボールベアリングは、その軽量(鋼の1/3)で高ヤング率(鋼の3倍)の特性を生かしてマシニングセンタの主軸用の高速回転軸受けおよび高温軸受けとしても使用されている。この表2の構造の項目に示す図に示す真空用玉軸受けの外輪と内輪の間にはステンレス製のシールドが取り付いており、固体潤滑剤がボールベアリング外部に飛び出しにくい構造を採用している。このボールベアリングを真空の環境で使用する場合、設計者がその軸受けを選定する際は、そのベアリングサイズを決めなければならない。この作業を行う場合、ベアリングの寿命をその設計の基準とする。通常のベアリングの寿命は負荷荷重と回転数を掛け合わせたDN値と呼ばれる数字で決まり、この数字がベアリングメーカから寿命の実験式と共に提供されている。このデータで示される負荷荷重は、ベアリングの動定格荷重の数%の数字である。内径φ20mmのべアリングの動定格荷重が7,900Nであるから真空用ベアリングで支持される基本動定格荷重を3%とした場合、その数字は237Nとなる。
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