金型は、組立をしている間は必要以上の力は加わりませんが、実際に射出成形機に取り付けて成形加工する場合は、組立の際とは異なり、さまざまな外力を受けています。
例えば、金型を締め付けている型締め力は、数トンから数百トン、数千トンまで及びます。その圧縮応力に、まず金型は十分に耐える強度を持っている必要があります。
さらに、溶融樹脂をスプルーを経由し、ランナーを経てキャビティ内部を完全に充填するためには、樹脂に圧力を加えて流し込まねばなりません。なぜなら、溶けたプラスチックは、粘り気(粘度)のある流体ですから、流し込むためにはそれなりの押し込む力が必要になるからです。その圧力は、スプルー入り口付近では1000〜2000kgf/cm2にも及び、キャビティ内部でも200〜600kgf/cm2もかかっています。しかも、その圧力は、通常1秒もかからない極めて短時間に作用しますので、コアピンやキャビティの壁には、相当の衝撃が加わることになります。
また、成形品を突き出す際には、エジェクタロッドにより、エジェクタピンが押されますが、エジェクタピンの作動がスムーズでないと、ピンには過大な圧縮応力が加わり、場合によっては細長いピンは座屈破壊を起こしてしまいます。
このように、金型の部品が破損するプロセスを順序を追って振り返ってみますと、それ相応の原因が絡んでいます。
金型が破損しないようにするためには、金型を設計する際に、基本的な使用環境(射出圧力、金型構造、作用応力など)を数値で明確化し、金型の実際の作動工程を事前検証することが重要です。基本構造の強度計算や構造上の欠陥等を背負ったままですと、金型ができあがってからの微調整ではカバーしきれない致命傷に至ることもあるからです。
さらに、金型の部品を機械加工する際や組立調整をする場合にも、パーツの形状や面の品位、はめあい精度などを理解した加工上の配慮も大切です。機械加工の場合、図面に指示された寸法、精度、公差を満たしていれば最低限の責任を果たすことはできますが、より優れた金型を作るためには、さらに一歩進んで、金型部品のファンクションを理解することが望ましいと言えるでしょう。
壊れない金型を設計製作するためには、基本構想と加工組立の配慮がバランスされる事が重要なポイントになります。