ボールベアリングの魅力は、摩擦係数が小なる点にある。このメリットを力・仕事・仕事量の観点から説明し、この低摩擦量が、電力の省エネに大きく貢献している点を示す。
ボールベアリングが使われている理由
図1に示す通り、固定部品と移動部品の間の鋼球による「転がり」現象の特徴は、固定部品と移動部品の間の潤滑剤による「滑り」現象に比較して、摩擦係数が小さい点にある。
図1.転がり摩擦と滑り摩擦

移動部品が、固定部品上を移動する場合、移動する方向と反対方向に摩擦力が働き、この力は荷重に摩擦係数を乗じた数字となる。ボールベアリングと滑り軸受けの摩擦係数は、次の通りである。
ボールベアリングの摩擦係数:0.0015
滑り軸受けの摩擦係数:0.15
この摩擦力の移動によって、機械仕事がなされ、この仕事のためエネルギーを要することになる。この摩擦係数の利点を電力の観点から説明すると、図2に示す、重さ200kgの回転体をモーターで駆動する際、必要なモータパワーは、負荷となる回転体の摩擦トルクによって算出できる。
図2.軸受けと回転体

表1.ボールベアリングと滑り軸受けの比較
軸受け | 重さ | 摩擦係数 | 摩擦力 | 摩擦トルク |
---|---|---|---|---|
ボールベアリング | 200kg | 0.001~0.0015 | 4kg | 1.2Nm |
滑り軸受け | 200kg | 0.07~0.15 | 20kg | 6Nm |
この回転体が1,800rpmで回転した時、駆動するモーターに必要なパワーは、
パワー(W)=摩擦トルク(N・m) x 回転角速度(rad/s)
回転数を角速度に変換:1,800rpm=2 x π x 30 = 188.5(rad/s)
ボールベアリング摩擦トルク(N・m)=200 x 9.806 x 0.0015 = 2.94(N・m)
ボールベアリングに必要なパワー:2.94 x 188.5 = 555(W)
滑り軸受け摩擦トルク(N・m)=200 x 9.806 x 0.15 = 294.18(N・m)
滑り軸受けに必要なパワー:294.18 x 188.5 = 55(kW)
日本の総発電量を例に挙げて、ボールベアリングの省エネに対する貢献について、説明する。日本においては、総発電量の半分がモーターで消費されている。日本の総発電量は10,000億kWhなので、実に5,000億kWhがモーターとその負荷に使用されていることになる。ここで、モーターとその負荷の1/10が、滑り軸受になったと仮定すると、対象となる転がり軸受けによる負荷駆動に必要なパワーは500億Kwhで、滑り軸受けは転がり軸受の100倍の負荷と考えれば、50,000億kW(=500*100)が滑り負荷に必要なパワーとなる。従って、すべり軸受けとした総発電量は、現在の数字の倍の59,500億kWh(=9,500億+50,000億)となり、現在の6倍の発電量が必要となる。
滑り軸受が使われる理由
数少ないボールベアリングのウイークポイントの一つは、転動体の形状のばらつきに起因する、サブミクロンメートルオーダーで、なめらかな精密回転が得られないところにある。精密回転を要求される機器の事例で、この現象を説明する。 情報を記憶するブルーレイディスクを例に挙げて、滑り軸受けが使用される理由を説明する。
ブルーレイディスクは、円盤の円周上に記録された小判形状のピットの記録情報をブルーレーザーにより読み出す。光学系の半径とディスクの回転による円周方向の運動で、円盤状に記録された目的のピットにレーザー光を導き、読み出すわけであるが、半径方向の移動は、レーザー光学系の直線運動、円周方向の移動は、ディスクの回転運動を用いる。この時、記録ピッチは、図3に示す様に0.32μmで、ディスクが取り付いた回転軸による運動で、その円周方向の記録ピットにレーザー光がアクセスする。
図3.ブルーレイディスクの記録ピット

レーザーは、巧妙な制御系を用いて、正確にこのトラックピッチに追従するよう設計されているが、図1の上図に示す様にブルーレイディスクを載せた回転軸を支持するボールベアリングの回転精度は、ボールの直径の差異に起因する非同期の誤差が、トラップピッチの量に相当する。この誤差の波形は、その周期が短く、このキャンセルには早い応答が必要となるので、レーザー光の位置制御系で追従できないため、ボールベアリングは使用できない。一方、滑り軸受けは、すべり部の微小な凹凸形状が滑り作用で平均化され、図4 に示す様に回転誤差は、軸の真円度と回転軸の偏心に起因する同期誤差で、この量は、その周期が長いので、レーザーの追従制御は可能となる。従って、ブルーレイのディスク回転軸受けは、その回転特性の滑らかな、滑り軸受け(流体軸受けを含む)を使用することになる。
図4.軸受けと回転精度
