(11)ラッカー
乾燥の早い溶液形塗料を一般にラッカーといっています。油性塗料やいままで述べてきた合成樹脂塗料は、塗料と塗膜の分子量に大きな差がありますが、ラッカーでは塗膜主要素の分子量は十分に大きく、単に溶剤の揮発だけで塗膜が形成されます。一旦形成した塗膜も、その溶剤で再び溶けます。
塗膜主要素の種類により、繊維素(セルローズ)誘導体ラッカー、ビニル系ラッカー、アクリル系ラッカーなどがあります。しかし、単にラッカーといえばニトロセルローズラッカーを指します。
また、このような原料樹脂による分類のほか、木材用、金属用ラッカー、ラッカー下地など、用途・塗装方法による分類もあります。
(1)ニトロセルローズラッカー(NCラッカー)
ニトロセルローズ、樹脂、可塑剤を塗膜要素として、速乾性で強靭な皮膜が得られ、広く用いられているラッカーです。繊維素を硝酸に溶解したニトロセルローズ(NC)に、アルキド樹脂またはビニル、アクリル、メラミンなどの樹脂を加え、可塑剤としてフタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジオクチル(DOP)などを用いています。
溶剤は混合溶剤で、溶剤は塗装に流動性を与えるばかりでなく、乾燥、塗面状態、光沢、塗膜の諸物性を左右するほど重要であります。この場合エステル、ケトン、グルコースエステル類とアルコール類の混合物を用います。
NCラッカーには、ハイソリッドラッカー、ホットスプレー用ラッカー、静電塗装用ラッカー、ラッカー下地などがあります。
(2)エッチングプライマー(ウォッシュプライマー)
固形分を多くしたハイソリッドラッカーは、光沢、付着性、耐候性にすぐれ、自動車補修用、木工用によく用いられます。 これは、ポリビニールブチラール(PVB)と、錆び止め顔料であるジンククロメートを練り合わせ、使用前にりん酸を加えた金属表面処理と錆び止め兼用のプライマーであります。金属表面ではPVB、ジンククロメート、りん酸が複雑に反応して不活性な皮膜を形成します。金属塗装の前処理剤として必須で、とくにアルミニウムや亜鉛めっき鋼板の防錆・密着性向上に有効です。
(3)アクリルラッカー
アクリル酸またはメタクリル酸エステル、スチレン、酢酸ビニルなど熱可塑性アクリル樹脂を塗膜主要素とするラッカーで、溶剤揮発だけで塗膜を形成します。アクリルラッカーは、無色透明、光沢保持性、保色性、耐候性が群をぬいて優れています。
とくにメタリックカラーが美しいので自動車、鉄道車両などの外装、家電、事務用機器などの金属製品の高級仕上げに用いられています。