金型用の鋼材には、いろいろな性質が求められます。まず、その内容を理解しておきましょう。
(1)耐摩耗性
JISでは、摩耗を「相対運動する金属面の機械的引っかき、金属的粘着などが総合されて、その面が損耗する現象」と表現しています。耐摩耗性とは、このような現象が起きにくい性質といえます。
(2)耐摩耗性に影響する要因
(1)硬さの影響
耐摩耗性に影響を与える大きな要因に「硬さ」があります。一般に、硬いほど耐摩耗性は大きくなります。ロックウエル硬さで40HRCあたりを境に大きく変化しています。40HRC以下では摩耗量は大きく、以上では摩耗が少ないのです。しかし、焼き入れして硬ければよいというものではなく、硬さと同時に鋼材の内部に残留応力が少ない方がよいのです。焼き入れ、焼き戻しをセットで行うのはこのためです。
(2)成分の影響
鋼材の主要な成分は炭素(C)です。炭素量が多いと焼きが入りやすくなります。炭素量が0.6%をこえると、焼き入れ硬さはほぼ一定になります。硬さが一定になれば耐摩耗性はそこで安定してしまうか、というとそうではなく炭素量が多いほど耐摩耗性は向上します。さらに、W、Cr、V、Moなどの元素が添加されると耐摩耗性は向上します。
これらの成分は炭素工具鋼(SK)、特殊工具鋼(SKS)及びダイス鋼(SKD)の順に添加量が多くなっています。JIS規格等で成分を見比べてみて下さい。その違いが分かると思います。
(3)組織の影響
鋼材は、焼き入れすると鉄(Fe)と炭素(C)が結合して、マルテンサイトに変化します。このマルテンサイトが耐摩耗性には有効なのです。しかし、高炭素鋼や高合金工具鋼(SKD等)などでは、焼き入れ、焼き戻しでマルテンサイトに全てが変化するわけではなく、20〜30%の部分が残留オーステナイトとなっています。この残留オーステナイトが摩耗にはよくないのです。
残留オーステナイトをマルテンサイトに変える方法に、サブゼロ処理があります。サブゼロ処理は、鋼材を−60〜−80℃くらいまで冷やすことで、残留オーステナイトをマルテンサイトに変えるのです。