システム構成の方法
ここでは1例を取り上げ、真空システムを構成するための理論から実際までの手順を説明します。
この例では以下のワークと搬送システムを使用し、3つのケースに分けて考察します。
ワーク
- 材質
- :鋼板(パレットに積み重ねられた状態)
- 表面
- :滑らかで段差がなく、乾いた状態
- 寸法
- :長さ 最大2,500mm
幅 最大1,250mm
厚さ 最大2.5mm
質量 約60kg
搬送システム: ガントリー(門型)搬送ユニット
- 圧縮エア
- :0.8MPa
- 制御電圧
- :DC24V
- 必要な作業
- :水平方向のピック&プレース
1枚の鋼板をパレットから持上げて水平搬送し、マシニングセンタに位置決めする - 最大加速度
- :X、Y軸:5m/s2
Z軸:5m/s2 - サイクルタイム
- :30秒
- 計画時間
- :ピックアップ:<1秒
リリース:<1秒
ワークの質量の計算
最初にワークの質量(m)を決定します。ワークの質量はさまざまな計算に必要な値です。
m = L x B x H x ρ
- m
- = 質量 [kg]
- L
- = 長さ [m]
- B
- = 幅 [m]
- H
- = 高さ [m]
- ρ
- = 密度 [kg/m3]
この例の場合 :
- m
- = 2.5m x 1.25m x 0.0025m x 7,850kg/m3
- m
- = 61.33kg
真空パッドの理論保持力
真空パッドはワークの質量だけでなく、加速力にも対応できなければなりません。
安全率は、ワークが滑らかで通気性がない場合、少なくとも 1.5とします。危険性があるワーク、通気性があるワーク、表面が粗いか表面に凹凸があるワークの場合には、安全率は2.0以上とします。また、加速度や摩擦係数などの条件が未知か、正確に把握できない場合にも、2.0以上の安全率を使用します。
ケースI:
真空パッドを水平にし、垂直方向にワークを移動する場合
ワーク(この例では、寸法2.5×1.25 mの鋼板)をパレットからピックアップし、5 m/s2の加速度で持ち上げます。水平方向の移動はないものとします。
真空パッドをワークに垂直方向から位置決めし、ワークを持ち上げます。
FTH = m x (g + a) x S
- FTH
- = 理論保持力 [N]
- m
- = 質量 [kg]
- g
- = 重力による加速度 [9.81m/s2]
- a
- = ハンドリングシステムの加速度 [m/s2]
- S
- = 安全率(少なくとも1.5にします。危険性があるワーク、通気性があるワーク、表面が粗いか表面に凹凸があるワークの場合には2.0以上にします)
この例の場合 :
- FTH
- = 61.33kg x (9.81m/s2 + 5m/s2) x 1.5
- FTH
- = 1,363N
ケースⅡ:
真空パッドを水平にし、水平方向にワークを移動する場合
ワーク(寸法2.5×1.25 mの鋼板)を垂直方向に持ち上げ、水平方向に搬送します。加速度は5m/s2です。
真空パッドをワークに水平方向から位置決めし、ワークを横に移動します。
FTH = m x (g + a / μ) x S
- FTH
- = 理論保持力 [N]
- Fa
- = 加速力=m x a
- m
- = 質量 [kg]
- g
- = 重力加速度 [9.81m/s2]
- a
- = 搬送システムの加速度 [m/s2]
(緊急時のワークリリースに注意) - μ
- = 摩擦係数
- = 0.1(油が付着した表面)
- = 0.2~0.3(湿った表面)
- = 0.5(木材、金属、ガラス、石材など)
- = 0.6(粗い表面)
- S
- = 安全率(少なくとも1.5にします。危険性があるワーク、通気性があるワーク、表面が粗いか表面に凹凸があるワークの場合には2.0以上にします)
この例の場合 :
- FTH
- = 61.33kg x (9.81m/s2 + 5m/s2 / 0.5) x 1.5
- FTH
- = 1,822N
ケースⅢ:
ワークをピックアップし、真空パッドを垂直にして移動する場合
ワーク(寸法2.5×1.25mの鋼板)をパレットからピックアップし、回転させながら5m/s2の加速度で移動します。
FTH = (m/μ) x (g+a) x S
- FTH
- = 理論保持力 [N]
- m
- = 質量 [kg]
- g
- = 重力加速度 [9.81m/s2]
- a
- = 搬送システムの加速度 [m/s2]
(緊急時のワークリリースに注意) - μ
- = 摩擦係数
- = 0.1(油が付着した表面)
- = 0.2~0.3(湿った表面)
- = 0.5(木材、金属、ガラス、石材など)
- = 0.6(粗い表面)
- S
- = 安全率(少なくとも1.5にします。危険性があるワーク、通気性があるワーク、表面が粗いか表面に凹凸があるワークの場合には2.0以上にします)
この例の場合 :
- FTH
- = (61.33kg/0.5) x (9.81m/s2 + 5m/s2) x 2
- FTH
- = 3,633N
ケースI~IIIの比較:
今回取り上げた例の場合、必要な作業はワークをパレットから持ち上げ、横方向に移動し、マシニングセンタに位置決めするというものです。そのためケースIIIのような回転運動はなく、ケースIIだけを考慮する必要があります。
この場合、理論上の最大保持力(FTH)は1,822Nです。この力はワークの水平搬送時、真空パッドに作用します。以下、安全なシステムの構成に向け、この値に基づいて計算を進めます。
真空パッドの選定
計算による理論保持力は、真空パッドがワークを安全に搬送するために必要な力です。
この例で選択した真空パッド :
フラット真空パッド SAF (ニトリルゴム製)
この真空パッドは、滑らかで平らなワークを搬送する場合に、費用対効果に優れたソリューションです。
この時、計算による理論上の保持力を1個の真空パッドが担うのか、複数の真空パッドで分けて担うのかを決める必要があります。
この例のような鋼板(2,500mmx1,250mm)の場合、一般に6~8個の真空パッドを使用します。真空パッドの個数を決めるにあたり、考慮すべき最も重要なポイントは、搬送に鋼板がたわまないことです。
真空パッド1個に必要な吸着力FS [N] の計算
FS = FTH/n
- FS
- = 吸着力
- FTH
- = 理論保持力
- n
- = 真空パッドの個数
- この例の場合 :
- FS = 1,822N / 6
FS = 304N
真空パッドSAFのテクニカルデータから、このタイプの真空パッドを6個使用する場合には、SAF100-M10-1.5(径100mm、吸着力430N) を使用する必要があることがわかります。
FS = 1,822N/8
FS = 228N
真空パッドSAFのテクニカルデータから、このタイプの真空パッドを8個使用する場合には、SAF80-M10-1.5(径80mm、吸着力272N)を使用する必要があることがわかります。
この例で選択した真空パッド:
真空パッド SAF100-M10-1.5 (6個)
6個の真空パッドで、厚み2.5mmの鋼板を持ち上げ、搬送することができます。
重要:
真空パッドの吸着力は、計算で出した理論保持力よりも大きくなければなりません。