プラスチック射出成形金型のキャビティやコアの機械加工では、放電加工法が多用されています。放電加工法は、焼き入れ後のマルテンサイト化した硬い鋼材にも平易に形状加工ができる、優れた機械加工法です。精密な形状や3次元曲面の加工にも適しています。
しかし、放電加工の特有の機械加工特性をよく理解をしておかないと、金型部品として使用する際に不測の不具合を生じてしまう場合が稀にあります。そこで、放電加工のプロセスを基本に立ち戻って理解をしてみましょう。
放電加工では、通常、電極を製作し、これを被加工物(ワーク)に対峙させ、双方に異なる電位を加えた後、加工油の中で電極を徐々に近づけていって、アーク放電が生ずる際の高温発熱による熱エネルギーで、ワークの一部を溶かして吹き飛ばしながら加工を進行させます。
電極とワークの放電するすきまのことを、放電クリアランス、放電ギャップと呼んでいます。放電クリアランスは一般的に0.03〜0.3ミリ程度です。加える電流の大きさによって調整をします。加える電流は、直流で、+極と−極があります。一般的には電極側を+極(陽極)とし、ワーク側を−極(陰極)として設定します。この方式の方が、加工性、電極の消耗度合いなどが合理的なためです。
放電は、数ミクロンメートルの距離で50万分の1秒〜1千分の1秒程度の短い時間に発生し、鋼材の融点を越える温度まで局部的に上昇します。当然、ワークの表面は瞬時に溶融します。また、加工油も瞬時に蒸発して気体になります。加工油の蒸発した気体によってワークの溶融部は吹き飛ばされて、小さな窪み(クレーター)が発生します。
電極は、サーボモーターによって上下動し、次の放電が再開されます。
ワークの表面は、無数のクレーター痕が発生しているため、微少な凹凸でざらざらしています。また、鋼材の場合には、加工油中の炭素成分が溶けた鋼材中に含浸されて炭素量の多いマルテンサイト(焼き入れ時の結晶構造)となっている場合が多く、残留応力が残っていて、しかも微少な割れ(マイクロクラック)も無数に生じています。
したがいまして、放電加工後の表面は、数ミクロンメートルの厚さで不安定な硬化層が形成されているということになります。したがいまして、放電加工後の表面は、砥石やオイルストーンで丁寧に磨いて、硬化層を取り除かないと、マイクロクラックが射出成形の連続加工後にだんだん大きく成長してしまい、金型部品が割れたり、折れたりする事故につながってしまう場合があります。
電極は、コーナー部を筆頭として放電により自身も溶けて消耗をします。消耗の度合いは電流の条件によってある程度はコントロールできますが、全く消耗させないことは不可能です。しかたがって、通常は、電極は2本以上を準備して、粗取り加工用と仕上げ加工用に使い分けをしています。