クランプ作業時間の短縮は、機械停止時間を削減し、加工時間を増やす生産効率向上に有効な方法の1つである。ここでは加工工程でよくある変形や浮き上がり等の課題と、その解決成功事例を2つ紹介する。
生産効率が上がらない・・・実はクランプ作業時間が要因?
加工工程におけるクランプ作業=利益を生まない時間
切削加工現場において、必要不可欠なワークを固定するクランプに係る段取り作業は、必要不可欠である。しかしクランプ作業中というのは『加工していない時間(非稼働時間)=利益を生まない時間』である。加工工程においてワークをセットする際、ワークが動かないように確実にクランプしなければならないが、変形や浮き上がり等が発生してしまうと、加工時間よりも非稼働時間が長くなってしまう。あなたの会社では、どのくらいクランプ作業に時間がかかっているだろうか?
図1 クランプ作業時間削減の効果
クランプ作業のよくある課題
基本的にクランプの選定は、対象ワークの特長(形状・大きさ・精度・加工数量など)と、取り付けベース・工作機械の能力や切削力および、その他の治具エレメントなどを考慮する必要がある。また、クランプバーでワークを押さえる際、ワークの変形や浮き上がり、クランプ力不足など加工不良が発生しないように注意が必要である。変形等の課題を防止することは、クランプ作業時間短縮のポイントの1つである。
表1 よくある課題
ワークの変形 | クランプバーが傾いた状態でワークを無理に押さえつけると、ワークが傾き変形が発生 |
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ワークの浮き上がり | クランプバーの真下にワークの受けがないと、ワークが傾き安定しない |
クランプの剛性不足 | クランプ力に対し、クランプバーの剛性が弱いと、 クランプバーが変形したり繰り返し使用すると最悪の場合破損 |
解決事例―クランプ改善で生産効率アップを実現
クランプ歪みや浮き上がりを防止することでクランプ作業時間が短縮できれば、加工時間が増えて生産効率の向上効果が得られる。実際の解決事例を紹介する。
課題①-歪みの大きい素材ワークの加工効率を上げたい
ある加工現場では、素材ワークの歪みが大きく、歪み取りの工程に時間がかかっていた。
上面の面削を行う際に側面をクランプするとクランプ歪みが出てしまい、大きく平らな素材ワークのためサポートジャッキで中央を支えたくともスペースの都合でジャッキが入らない。結果、加工中にどうしてもビビリが入ってしまうせいで、加工効率が上がりにくかった。
解決策-クランプ時間が5分の1に!歪み取り時間70%削減に成功
素材ワークの歪み取り時間の短縮と、クランプ歪みや加工中のビビリを解消するために、この加工現場では磁気の力でワークを固定する「マグネットチャック」を導入、機械テーブルへ設置した。マグネットチャックは磁力を使ってワークを下面だけで支えるため、上面の面削を行う際も側面でクランプする必要がなく、側面をクランプしていた時に起こっていたクランプ歪みが発生しない。この事例では、素材ワークのサイズに合わせてマグネットチャックを5枚並べ、その上にマグワークサポートを配置することでビビリの原因となっていたワークの中央部分までしっかり吸着して固定できるようにした。
また、マグネットチャックのボタンひとつでクランプ・アンクランプができる機能を活かすため、5台導入したマグネットチャックのコネクターに延長ケーブルを追加して1箇所にまとめた。そうすることで、オペレーターがワークの周りを移動しなくてもワークをクランプできるようになり、クランプ時間の短縮が図れる。
これらの改善により、ワークのサイズによっては歪み取りの時間70%削減でき、クランプ作業にかかっていた時間が15分から3分へ短縮された。また加工中のワークのビビリも解消され加工効率が向上したという。
図2 マグネットチャック導入による改善
課題②-治具のスペース効率を上げたい
ある加工現場では、治具にワークを固定するクランプのサイズが大きく、スペースの関係で治具にワークを1個しか固定することができていなかった。そのため横形マシニングセンタを12時間稼働しても1日24個の生産で、予定生産数量に届かず、治具のスペース効率を上げることが課題となっていた。
解決策-クランプユニット改善で1日の生産数1.8倍に成功
そこでこの加工現場では、全長が短く小型な「スイングクランプS型」に変更した。そうすることで、1つの治具に2つのワークを固定することができるようになり、治具のスペース効率を上げることができた。また、クランプが小さくなって下がったクランプ力を補うため、1つのワークに対して2個だったクランプを4個に増やすことで解決した。
結果、1日の生産数を24個から40個へ増やすことに成功、予定生産数量を達成できるようになったという。
また「スイングクランプS型」はワークを固定するヘッド部分が360度回転するためワークが取り付けやすい特長がある。アンクランプ時にヘッド部分が自動で上昇するため、ワークの脱着時間を短縮する効果もあった。
図3 スイングクランプS型による改善
株式会社ナベヤ「治具選定ガイド」より参考