火災の惨状は、火災の原因そのものの熱によるよりも、可燃物質に引火して、それによって発生する多量の熱・煙や有害ガスによる被害が大きいものです。
防火塗料の種類を【表1】に示します。防火塗料には高い熱や火炎に触れると、数百倍に膨張して発泡し、塗膜自体が難燃化して基材の着火温度への到達を遅らせる能力をもつ発泡性防火塗料と、消火性ガスを発生して熱と炎の伝導を抑止する非発泡性防火塗料があります。後者には有機質のものと無機質のものがあります。 |
【表1】防火塗料の種類
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防火塗料の目的は、被塗物の耐火性によって区分され、被塗物が可燃性の場合には難燃化し、被塗物が不燃性の場合には、塗膜の断熱作用により熱による劣化を防ぎ、可燃物への延焼を防ぎます。
発泡性防火塗料は、平常時には一般の塗膜の性状をしていますが、塗膜が火炎に触れると数十〜数百倍の厚さの緻密なスポンジ状炭素膜を形成したり、不燃性ガスを発生して素材が着火温度に上昇するのを遅延させます。従って着火温度の低い木材などに有効です。木材に防火塗料を塗布すると、燃焼時のガス発生量は1/3〜1/100に減少するといわれています。
発泡系の主成分としては、第一りん酸アンモン、尿素、澱粉、パラホルムアルデヒドなどで、使用時に水でねって塗装します。塗膜内で、尿素とパラフォルムアルデヒドから尿素樹脂が生成されバインダーになります。アンモニウム塩は250℃で分解し始め、290〜300℃で急激にアンモニアガスを放出して、塗膜の脱水炭化を促進させます。そのプロセスは次のとおりです。
1. | 火源の熱によって塗膜表面が溶融する。 | |
2. | 発泡剤が熱分解して、不燃性ガスを発生して、塗膜を膨張させる。 | |
3. | りん酸含有触媒が、炭化剤よりも低温で分解する。 | |
4. | 発生したりん酸の働きで、炭化剤が脱水炭化して難燃化する。 |
難燃性の防火塗料は、塗膜自体が難燃性で自己消火機能をもっています。例えば酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリルなどの難燃性樹脂をバインダーとして、これに多量の無機顔料を含有するエマルジョン塗料や、ハロゲンで難燃化した樹脂バインダーに三酸化アンチモンのような難燃性助剤を添加したものなどがあります。
不燃性塗料は、無機質バインダーに無機質顔料を配合した完全不燃性塗料であります。
防火塗料の用途としては、家電製品、家具、自動車内装用などで、とくに自動車内装品では基材の不燃化・難燃化のほかに、ソフト・フィーリングやスエード調の触覚的意匠仕上げが注目されています。例えばABS樹脂性の部品に防火塗装を施して、固い冷たい感じを、温かいソフトな触覚にさせています。