電気めっきの応用に電鋳(でんちゅう)という表面処理技術があります。JISの用語解説によりますと「電鋳とは、電気めっき法による金属製品の製造・補修または複製法である」と規定されています。電鋳とは、電気鋳造を略したもので、英語ではElectroformingが広く使われていますが、Electrotyping、Electrocastingなども使われます。
一般に電鋳は、金属塩水溶液(めっき液など)の電気分解により、原型(母型、マンドレル)に所要の厚さに金属を析出させた後、この電着層を母型から剥離すると、母型と全く逆の形状のネガティブ(陰型)の電鋳が得られます。この電鋳をそのまま用いることもありますが、このネガティブ電鋳の表面に剥離皮膜処理(電着した金属を、型から簡単に剥離できるようにする前処理)を施してから、所要の厚さに金属を電着させて剥離すると、母型と全く同じ形状のポジティブ(陽型)の電鋳が得られます。
従って、ネガティブ電鋳を使って、同じ操作を繰り返すと、母型と全く同じ寸法精度を有する複製を多数作ることができます。
電鋳には、このように母型から剥離して用いる場合のほかに、素地金属に直接電着してそのまま製品とする場合があります。磨耗した金型やシャフトを電鋳で肉盛り補修する場合などです。
電鋳は、剥離型と厚付け型の二つに分類することができます。
1)剥離型電鋳
剥離型電鋳は、原型(母型)に金属を電着させ、剥離して製品とします。電鋳の厚さは、広範囲で、非常に薄いメッシュのようなものから、プラスチック成形用の金型のように数mm以上の厚いものもあります。
2)厚付け型電鋳
これは、素地金属に直接厚く電着し、機械部品の補修や肉盛りする場合に行われます。多量生産ではなく、電鋳が1回で終わるものが多く、電鋳による肉盛り(Electrosizing)、電鋳被覆(Electrocladding)、電鋳組立て(Electroassembly)等に応用されています。
厚付け型電鋳は、一般の電気めっきを長時間行い電着層を厚くする方法であります。剥離型電鋳は、原型に剥離皮膜処理を行って電鋳、剥離する転写法や、原型が1個しかない美術工芸品や木、皮、織物等をプラスチック、ワニス、石膏等で一度型取りして、それを母型として使用する型取法、低温熔融合金やワックスで原型を作り、電鋳後、原型を熔融除去して電鋳殻をつくる熔融除去法に区分されます。
電鋳は、美術工芸品から電子部品、精密部品の製造まで幅広く応用されております。機械加工のできない複雑な形状のものには電鋳でないと製造できないもあります。電鋳の初期には、液が安定で電着が容易な銅が主力でありましたが、今日では、機械的強度のより優れたニッケルやその合金が採用され、また、スルファミン酸ニッケル浴などによって電鋳の高速化が出来るようになりました。