現在の浸炭法の主流は、ガス浸炭法です。前回の【表1】で述べたように、ガス浸炭法には各種の方法があります。
(1)変性ガス法
浸炭性の変性ガスは、プロパンC3H8やブタンC4H10と空気を混合させ、ニッケル触媒中でおよそ1000℃に加熱して生成します。
このガスが、空気中の酸素と反応して一酸化炭素COと水素H2が生成され、鋼と反応して浸炭が進行します。なお炉中の炭素濃度を高めるために、炭素濃度増加ガスとしてプロパンガスやブタンガスを導入します。
(2)分解ガス法
熱分解するガスには、メタノールCH3OHなどの有機系液体が浸炭温度で熱分解して使われています。この熱分解ガス法の特徴は、ガスをつくるための変性炉を必要とせず、有機系液体を直接浸炭炉に注入滴下することです。このため、滴注式浸炭または滴下式浸炭ともいわれています。
炉中に滴下されたメタノールは熱分解によって、浸炭性の一酸化炭素と還元性の水素に変化しますので、一酸化炭素が鋼と反応して浸炭が進行します。この場合も炭素濃度増加ガスとして、プロパンガスやブタンガスが使われます。
(3)変性炉を必要としない浸炭法
その他の浸炭法として、変性炉を必要としない浸炭法には、窒素ベース法、直接浸炭法、真空浸炭法、プラズマ浸炭法などがあります。
(4)その他
一般的な浸炭層の炭素濃度は0.8〜1.0%でありますが、近年2〜3%まで炭素濃度を増加させる高濃度浸炭も実施されるようになりました。
ガス浸炭法の特徴は、固体浸炭や液体浸炭と違って、炉中のガス成分の制御が可能である点です。
実験によると、炉中の一酸化炭素、メタンガスは浸炭に寄与しますが、水分、二酸化炭素、酸素はむしろ脱炭作用を促進することが分かっています。これらのガス成分濃度を適確に制御することによって、所望の炭素濃度を得ることができます。
雰囲気ガスの計測制御には、水分量を測定する露点計、炭酸ガスを測定する赤外線ガス分析計、酸素濃度測定には酸素センサーなどが使われています。