浸炭とは、炭素含有量の少ない鋼を浸炭剤中で加熱し、炭素を鋼の表面に拡散して炭素量を増加させることいいます。炭素は鋼を焼入れするのに不可欠の元素で、その含有量が多いほど高い焼入れ硬さが得られます。
浸炭処理した鋼を焼入れすると、浸炭層は硬化して耐磨耗性が付与されますが、内部の非浸炭層は硬化しないので靭性に富んでいます。
浸炭窒化は、炭素と同時に窒素を拡散浸透させる処理で、一般には浸炭性ガスにアンモニアガスを数パーセント混合した雰囲気が用いられています。
浸炭処理が適用される鋼は、機械構造用鋼のうち、炭素量が0.1〜0.2%のものが肌焼鋼として一般に用いられています。
浸炭法は、【表1】に示すように、浸炭剤や浸炭設備によって分類できます。固体浸炭は作業環境や作業性が悪く、液体浸炭はシアン公害などの問題があり、現在はガス浸炭が主流になっております。
【表1】浸炭法の種類
|
固体浸炭は、鋼と木炭を主成分とする浸炭剤とを耐熱鋼製の浸炭箱につめて密閉し、所定の温度で加熱する方法です。浸炭剤には炭酸バリウムや炭酸ソーダを20〜30%混ぜます。
浸炭の原理は、高温(900〜950℃)に加熱された木炭は、箱内に存在する酸素と反応して二酸化炭素となり、さらにこの二酸化炭素は木炭と反応して一酸化炭素になります。この一酸化炭素が鉄と反応し、炭素が鉄中に固溶します。
浸炭の終了した鋼は、加熱箱から取り出して冷却し、焼入れ、焼き戻し処理を行って強度を高めます。
液体浸炭は、シアン化ソーダまたはシアン化カリを主成分とする塩浴中に浸漬して、炭素を拡散する方法です。この場合には炭素と同時に窒素も侵入拡散するため、この方法は、浸炭窒化処理になります。浴中のシアンは空気中の酸素によってシアン酸となり、これが熱分解して一酸化炭素になります。これの炭素が鋼中に侵入拡散して浸炭されます。シアン中の窒素も同様にして鋼を窒化します。