製造現場にてスイッチング電源を実装するにあたっては仕様書を理解する必要がある。ここでは、仕様書にてよく表記される基礎的な専門用語について、入力・出力・機能・環境・絶縁という観点から整理し紹介する。
入力について
電圧範囲(入力電圧範囲)
各仕様項目を保証できる入力電圧の範囲を表し、単位は(Ⅴ)で表記する。
- 交流入力電圧:AC**V~***V(3相交流は3ΦAC**V~***V)
- 直流入力電圧:DC**V~***V
と記載し、交流入力の場合、入力電圧は実効値(rms)で表す。また、仕様規格で定義されている入力電圧は、電源の入力端子間の電圧で規定している。
交流電源の場合、単相交流と3相交流の2種類がある。単相と3相の違いを図1、図2に示す。
一般に省電力用には単相(100Ⅴまたは200Ⅴ)を用い、大電力を使用する場合には3相(200Ⅴ)を用いる。
図1.単相交流
図2.3相交流
3相交流は周波数が等しく 位相(時間のずれ)が120°(2π÷3)すつずれている3つの起電力をもつ交流をいう。
図2の3相交流では1周期の間に単相交流と比べて、3つの起電力があり、これを調整するとリップルが小さい直流電圧が得られる。
周波数範囲
各仕様項目を保証できる交流入力電圧の周波数範囲を表し、単位は(Hz)で表記する。
- AC85 ~ 265V
47Hz ~ 63Hz(47Hz ~ 440Hz)
図3.商用電源AC100V(50Hz)の電圧波形
力率
皮相電力内の有効電力の比率を表し、入力電力をどれくらい有効に使用しているかを示す。(高調波電流規制対応電源のみ、仕様規格に掲載されている)
- 皮相電力:
- 有効電力+無効電力
- 有効電力:
- 機器にて有効に消費される電力
- 無効電力:
- 機器にて消費されず電源へ戻る無効電流による電力
効率
出力電力と入力有効電力の比率を表し、単位は(%)で表記する。
図4.効率の考え方
注釈
電流×入力電圧=皮相電力(VA)
入力電流
電源に供給される電流を実効値(rms)で表し、単位は(A)で表記される。
注釈
入力電流と入力電圧は実効値となる。
図5.入力電圧とピーク電流
スイッチング電源の場合、入力電圧が正弦波交流電圧としても入力電流は、正弦波交流電流とはならない場合がある。
従って、入力電力は規定値×入力電流とはならないため注意が必要だ。
入力サージ電流(突入電流)
入力投入時、入力平滑用コンデンサに流れ込む最大瞬時電流をいい、単位は(A)で表記する。ユーザがスイッチや外付けヒューズを選定する際に必要なデータとなる。
入力サージ電流防止回路にはパワーサーミスタ方式、サイリスタ方式やリレー方式などがある。
図6.突入電流について
漏洩(リーク)電流
入力線から筐体を通して大地へ流れる電流をいい、単位は(mA)で表記する。人体への感電などの安全面から各国の安全規格により規定されている。
主に入力フィルタ回路の接地コンデンサ(Yコン)により大地(アース)へ流れる電流をいい、低減にはフィルタ回路のYコンの小容量化か削除によって行うことが必要である。(ただし、ノイズ減衰特性が変化する)
図7.電源入力回路の基本図
出力について
定格電圧(定格直流出力電圧)
電源の出力端子間に発生する直流電圧をいい、単位は(VDC)で表記する。
図8.正しい出力電圧測定方法
最大電流(最大直流出力電流)
電源から連続して供給可能な最大の出力電流値のことで、単位は(A) で表記する。
平均電流Im(平均出力電流)
ピーク負荷対応電源の連続して供給可能な出力電流値。
最大ピーク電流Ip(最大ピーク出力電流)
ピーク負荷対応電源の規定時間内にて供給可能な最大出力電流値。
図9.出力ピーク電流の計算
Iav≧Im=(Ip-a)×t/T+a
- Ip:
- ピーク電流値(A)
- Iav:
- カタログ上の平均電流(A)
- Im:
- 平均電流(A)
- t:
- ピーク電流のパルス幅(秒)
- T:
- 周期(秒)
最小電流(最小出力電流)
電源を安定動作させるために必要な電流値をいう。一部の製品で規定されている。
最大電力(最大出力電力)
電源から連続して供給可能な最大の出力電力値をいい、単位は(W)で表記する。
図10.正しい出力電圧測定方法
例)
- 単一出力:5V × 20A=100W
- 3出力:(5V×3A)+(12V×2A)+(12V×1A)=51W
総合最大出力電力(マルチ出力電源のみ)とは、電源から連続して供給可能な“各出力の電力の和”の最大値をいう。
ワットボックスについて
各出力CHの合計出力電力が仕様規格の最大総合電力以内であれば、自由に出力電流の組み合わせができる(各CHの出力電流、電力を超えないこと)。
例)3出力電源の場合
- 総合最大出力電力≧CH1出力電力 + CH2出力電力+CH3出力電力
最大入力変動(静的入力変動)
入力電圧を入力電圧範囲内でゆっくりと変化させた時の出力電圧変動の最大値をいい、単位は(mVまたは%)で表記する。
図11.正しい出力電圧測定方法
最大負荷変動(静的負荷変動)
出力電流を仕様規格内でゆっくりと変化させた時の出力電圧変動の最大値をいい、単位は(mVまたは%)で表記する。
図12.正しい出力電圧測定方法
最大温度変動
電源の周囲温度のみを変化させた時の出力電圧の変動値をいう。周囲温度が変化しても出力電圧が安定していることがこの値で分かる。
例)
- 0.02%/℃と表記されている製品の場合温度1℃あたり、出力電圧が定格の0.02%変化することを表す。
リップルノイズ
出力電圧に重畳される微少交流電圧成分の最大値をいい、単位は(mVp-p)で表記する。
図13.AC-DC 電源のリップルノイズ
保持時間(出力保持時間)
電源の入力を遮断後、出力電圧が低下し始める(電圧精度を外れる)までの時間を表し、単位は(ms)で表記する。
停電・瞬時停電の際に、この時間を利用してユーザは、装置の動作の保護を行う(コンピュータのメモリ退避など)。
図14.出力電圧の保持時間
電圧可変範囲
出力電圧を可変できる範囲をいい、単位は(VDCまたは%)で表記する。各製品により出力電圧可変方法が異なるので、製品ごとの取扱説明書の確認が必要。
過電圧保護回路を設けてある電源の場合、出力電圧調整ボリュームを回しすぎ(出力電圧を上げすぎ)ると、過電圧保護が動作し電源は遮断するので注意が必要。また、出力電源を上昇させた場合、出力電流は最大出力電力により規定される値まで低減させることが必要。
電圧設定精度
出荷時に設定される出力電圧の精度のことをいう。
機能について
過電流保護(OCP)
出力電流が規定値以上流れないように出力電流を制限すると共に出力電圧を低下させ電源の破壊を防止する機能で、単位は(%またはA)で表記する。
仕様規格の値は、過電流保護の動作点(出力電圧が低下し始める出力電流値)の値の範囲である。ただし過電流状態での連続運転は、電源が破損する可能性があるので注意が必要(各製品の取扱説明書を参照)。
過電流保護の代表的な特性について
過電流保護とは、負荷が短絡した場合など過大な負荷電流が流れた時に、負荷と電源を保護する機能である。
過電流保護特性には、「定電流電圧垂下方式」、「フの字方式」などがある。
定電流電圧垂下方式
出力電流が過電流検出値に達すると、その電流を維持したまま電圧が低下する。
出力電流が過電流検出値以下に下がれば、出力電圧は自動復帰する。連続運転が必要な場合におすすめする。
図15.定電流電圧垂下方式
フの字方式
図3-16に示すようにカタカナの「フ」に似ていることから呼ばれている特性である。過電流検出値を超えると出力電圧・電流とに低下する。この方式では出力が自動復帰しないことがあるので、このような場合には入力再投入が必要である。
図16.フの字方式
その他、間欠動作や出力遮断する製品もある。
過電圧保護(OVP)
出力電圧が規定値以上に上昇した場合に出力を遮断し、出力に接続されている負荷の破壊を防ぐ機能で、単位は(%またはVDC)で表記する。
仕様規格の値は、過電圧保護の動作点(出力電圧が遮断される電圧)の値の範囲である。
図17.過電圧保護波形
出力遮断方式手動リセット型
OVP動作時に出力を遮断させ、出力を復帰させるには、入力電圧を一旦OFFし、しばらく時間を置いてから再度入力を投入するタイプである。コントロールON/OFFでリセットできるモデルもある。
リモートセンシング
電源の出力端子から負荷までの配線(電線)の抵抗分による電圧降下を補正する機能である。
+S、–S端子付きの電源のみ、リモートセンシングが可能。+S、–S端子は、出力電圧を検出する端子で、その端子を接続した点(センス点)に出力電圧設定値の電圧を供給する。
注)大幅なラインドロップを補正すると出力端子間の電圧が高くなり、OVP にかかり出力が遮断する可能性がある。
リモートセンシングをしない(ローカルセンシング)場合、電線の抵抗により、負荷端の電圧は、出力電圧設定値より低下してしまうことになる。
例)
- 出力電流が10Aで、電線の抵抗が0.01Ωの場合電線による電圧降下は、10A × 0.01Ω=0.1V となり、負荷端の電圧は 5V–0.1V=4.9V となる。
図18.出力電圧調整方法(その1)
リモートセンシングを行うことにより、+S、–Sを接続した負荷端の電圧は、出力電圧設定値となる。この時、出力端子間の電圧は出力電圧設定値より高くなる。
例)
- 出力電流が10A で、電線の抵抗が0.01Ωの場合電線による電圧降下は 10A × 0.01Ω=0.1V となり、出力端子間の電圧は 5V+0.1V=5.1V となる。
図19.出力電圧調整方法(その2)
リモートON/OFFコントロール
入力を投入したまま、コントロール信号により出力をON/OFFする機能である。各製品ごとに仕様が異なるので、製品ごとの取扱説明書を確認する必要がある。
並列運転
出力電流を増加するために、複数台の電源の出力を並列に接続して運転することである。
また電源が故障した場合に、予備のために接続しておいた電源により、負荷への電圧供給を停止しないようバックアップ運転することもある。各製品ごとに仕様が異なるので、製品ごとの取扱説明書を確認する必要がある。
直列運転
必要な電圧を得るために、複数台の電源の出力を直列に接続して運転させることである。
入力瞬時電圧低下保護
SEMI-F47
半導体プロセス装置向けの規格の1つであり、半導体工場内において設備の故障や大きな負荷の変動により、AC供給電源が突然の電圧降下(半サイクルから数秒)を起こした状態をシミュレートし、その場合の被試験装置の耐性を評価する試験である。
図20.入力瞬時電圧低下保護機能
環境について
動作温度(動作周囲温度)
電源の仕様規格を満足しながら、連続動作を保証できる電源の周囲温度の範囲を表し、単位は(℃)で表記する。
電源は、周囲温度により、内部の部品の定格温度を超えないようにするために出力電力をディレーティング(低減)して使用しなければならない場合がある。取り付け方向、カバーの有無により出力ディレーティングカーブが異なる場合があるので注意が必要。
保存温度
電源が非動作状態で性能に劣化を生じさせずに保存できる周囲温度の範囲を表し、単位は(℃)で表記する。
動作湿度(動作周囲湿度)
電源の仕様規格を満足しながら、連続動作を保証できる相対湿度の範囲を表し、単位は(% RH)で表記する。
保存湿度
電源が非動作状態で電気性能に劣化を生じさせずに保存できる相対湿度の範囲を表し、単位は(%RH)で表記する。
継続した高湿環境下での保存は錆などの原因になるので、避ける必要がある。
耐振動
規定の試験条件で電源が破損しない振動条件である(JIS-C-60068-2-6 正弦波振動試験方法)。
例)
- (1) 振動の周波数範囲: 10 ~ 55Hz
- (2)周波数を変化させる時間:10〜 55Hz 及び、55〜10Hz を各1 分間で変化させる。
- (3)加速度:19.6m/s2一定である。
- (4)振動方向: X、Y、Zの3 方向
- (5)試験時間:各方向1時間 合計3 時間実施する。非動作状態にて試験を行う。(9.8m/s2=1G)
耐衝撃
規定の試験条件で電源が破損しない衝撃条件(IEC 60068-2-6(2007) 衝撃試験方法)である。非動作状態にて試験を行う。
冷却方式
電源から発生する熱を放熱する方法。
自然空冷
自然対流による放熱
図21.自然対流による放熱
強制空冷
ファンによる放熱
図22.ファンによる放熱
伝導冷却
熱伝導による放熱
図23.熱伝導による放熱
絶縁について
耐電圧
指定された端子間で耐え得る印加電圧(実効値)をいう。耐電圧は1次-2次、1次-FGなどで絶縁不良がないか確認するものである。
絶縁抵抗
指定された端子間に規定の直流電圧を印加した場合の抵抗値をいい、単位は(MΩ)で表記する。絶縁物の抵抗値を測定し、絶縁劣化していないことを確認する。
TDKラムダ社資料より参考