プラスチック射出成形金型では、加熱により溶けた樹脂材料、冷却水、圧縮空気、油圧の油、キャビティから排気されるガスなど流体が関与した物理現象がたくさん見られます。
流体とは、水や油だけではなく空気や樹脂も含まれています。流体はエネルギーを持っていますが、流動する途中でエネルギーは摩擦等によって奪われていき、最後には流動することができなくなってしまいます。このような物理現象は、流体力学でかなりのことが解明されています。
今回は、円形の管の中を粘性を持った流体が流れていく場合にどれぐらいの圧力が奪われていくか?(これを圧力損失と言います)について検討してみます。
ある円形断面の管(たとえば、チューブや金型の冷却水孔)があって、ある位置1と位置2の間を流体が流れる際にどれぐらいの圧力が損失するのかを予測する計算式が(式1)です。
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(式1)はハーゲン・ポアズイユの式(Hagen-Poiseuille)と呼ばれています。
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ハーゲン・ポアズイユの式から考察されることの整理
1.圧力損失は、円管の直径の2乗に反比例します。ランナー直径や冷却水穴直径や圧縮空気穴の直径によって失われる圧力は大きく変動します。
直径φ5mmの穴がφ10mmになると、圧力損失は、5×5=25 :10×10=100 となり25:100=4倍もの差になります。
2.圧力損失は、流体の粘性係数に比例します。プラスチック材料の粘性は、樹脂温度によって変化します。樹脂温度が1℃低下することでどのぐらい粘性係数が変化するかによりますが、一般的には樹脂温度が低下すると粘性係数は大きくなり流動抵抗が増大します。したがって、樹脂は樹脂温度が低下しすぎない状態でランナー、ゲートやキャビティ内を流動させることが低圧成形には必要であるということが理解できます。
3.圧力損失は、流体の流速に比例します。したがって、射出成形では充填速度を早くすると流動抵抗が増大します。適切な範囲の充填速度で成形することが必要になります。