電力や信号を伝送するのが役目である電線・ケーブルはいろいろな用途と場所に使用されている。トラブル・事故を回避するためには選定時に場所や用途の観点から検討することが重要である。ここでは電線ケーブルの基本的な取り扱い方および選定時の検討事項について紹介する。
電線・ケーブルの取扱い方
1)タバ・ドラムの取扱い
- タバは、屋内で平らな場所に保管し、なるべくころがさないで持ち上げて運搬する必要がある。
- ドラムは、平積にすると巻きくずれが発生し、引出しが不可能になるため平積しない。
- ドラムの転がしはしない。止むを得ず行なわなければならない場合には、ドラムの転がし方向(電線が弛まない方向)を遵守する必要がある。逆方向に回わすとケーブルの巻きがゆるんで引出しが大変である。
- タバ・ドラムの積下しは、絶対に落下を避ける必要がある。電線・ケーブルに過激な衝撃を与えると、著しく性能低下を起すことがある。
とくに、寒冷地でビニル電線を取扱うときは、もろく割れやすくなっているので注意する必要がある。
2)延線工事時の注意
- 1.
- 延線に際しては小石、突起、コンクリート枠板その他の障害物は完全に取り除く必要がある。また工事現場では異物落下衝撃、足場板、荷造木枠の釘による外傷などが発生しやすいため十分注意する必要がある。
- 2.
- ドラム巻きした電線を延線する場合、その繰り出し張力により電線の長さ方向に生じる張りや緩みの変化により、巻始め口付近にて電線の飛び出しあるいは、電線の座屈が生じる現象がある。電線の座屈を抑制するため、ドラム巻き始め電線の端末を外して、巻き始め口からの電線の飛び出しに注意しながら、作業を行う必要がある。長尺、細物の場合は特に注意する必要がある。
- 3.
- 延線時には、コロなどを使用し電線に無理な張力を加えないようにする必要がある。延線工事の際の許容張力はおよそ下表1のとおりである。
表1.許容張力
延線用具 | 導体種類 | 許容張力 |
---|---|---|
プーリングアイ | 銅 | 68.6MPa(7kgf/mm2)×(ケーブル線心数)×(導体断面積mm2)以下 |
アルミ | 39.2MPa(4kgf/mm2)×(ケーブル線心数)×(導体断面積mm2)以下 | |
ワイヤーネット (ケーブルグリップ) |
銅・アルミ | ビニルおよびポリエチレンシースの場合10MPa(1.02kg f /mm2)×(シース断面積*mm2)ただし、導体の許容張力を超えないこと |
注釈
- 注1)
- 管路布設等で単心ケーブルをⅠ孔に3条引入れする場合は、ケーブル線心数を2心として計算する。
- 注2)
- ワイヤーネットを用いて延線する場合は、ケーブルにワイヤーネットを500mm以上かぶせ、ワイヤネットの先端はバインドし、シースに均一に力がかかるように注意する必要がある。
*計算式 S =πt(D− t )
- S:
- シース断面積(mm2)
- t:
- シース厚さ(mm)
- D:
- 仕上り外径(mm)
- 4.
- ゴム、プラスチック電線は、紙、鉛被ケーブルなどに比べればある程度の屈曲性はあるが、極度に屈曲すると電気的性能を低下させる。布設に際しましては下表2の値以下には屈曲しないよう注意する必要がある。
表2.ゴム・プラスチックケーブルの許容曲げ半径
ケーブルの種類 | 単心 | 多心 | 備考 | |
---|---|---|---|---|
非分割導体 | 分割導体 | |||
遮へいなし | 8D | 12D | 6D | |
遮へいあり | 10D | 12D | 8D | 含鋼帯がい装ケーブル |
トリプレックス | - | - | 6D | |
(8D) | ( )内は高圧ケーブル | |||
波付鋼管がい装 | - | - | 8D | |
鉛被・鉄線がい装 | 10D | 12D | 10D | |
平滑アルミ | 20D | 20D | 20D | |
波付アルミ | 15D | 15D | 15D | |
*移動用 | 6D | - | 4D | 遮へいなし 低圧キャブタイヤケーブル |
注釈
- ※
- リール巻取式・カーテン式仕様などの常に一定の場所でくりかえし曲げられるものは、この数値を適用できない。
- D:
- ケーブル外径(mm)、ただしトリプレックスケーブルは外接円の直径(mm)
- 5.
- ケーブルのルートでわん曲部がある場合、延線時にケーブルをわん曲部に押え付ける力が働く。この力を側圧といい、側圧が大きいとケーブル性能を低下させるので下記の値以下で延線する必要がある。
- 丸形ケーブル:300kg/m
- トリプレックス形ケーブル:250kg/m
- 通信ケーブル:基本的には0kgである(設計者と条件要確認)
(参考)
ケーブル側圧(P)はP(kg/m)
=張力(kg)/ 曲げ半径(m)で求める。
表3.通信用ケーブルの許容曲げ半径
ケーブルの分類 | 接続及び支持する 場合の曲げ半径 |
布設中の曲げ半径 |
---|---|---|
PE(PVC)シースケーブル(遮へいなし) | 4D以上 | 10D以上 |
編組遮へいケーブル | 4D 〃 | 10D 〃 |
ラミネートシースケーブル | 6D 〃 | 15D 〃 |
鉛被ケーブル | 6D 〃 | 15D 〃 |
コルゲートシースケーブル | 6D 〃 | 15D 〃 |
アルミシースケーブル | 8D 〃 | 20D 〃 |
鉄線がい装ケーブル | 8D 〃 | 20D 〃 |
鋼帯がい装ケーブル | 8D 〃 | 20D 〃 |
注釈
- 注:
- 一般的に遮へいテープは、たて添えより横巻にする方が許容屈曲半径を若干小さくでき、また、波付(コルゲート)とフラットを比較すれば波付の方が若干小さくできる。
表4.同軸ケーブルの許容曲げ半径
ケーブルの分類 | 接続及び支持する場合の曲げ半径 | 布設中の曲げ半径 |
---|---|---|
外部導体が編組のもの | 4D以上 | 10D以上 |
外部導体が編組+金属箔貼付プラスチックテープのもの (例:FB、FB-LITE、SFA-LITE、HQ・SUPER) |
6D 〃 | 15D 〃 |
- 6.
- 黒以外のポリエチレン絶縁体は直接日光などにさらされると数カ月程度でき裂(紫外線劣化)を生ずることがあるので、低圧ケーブル絶縁体にも必ず所定の保護用テープを巻く必要がある。
- 7.
- ケーブルの導体中に水分が浸水すると、ケーブルの寿命を著しく損う。とくに地下管路、ダクトなど水のあるところへ引き込むときには、端末部のシールを完全に行う必要がある。またケーブルを切断し、そのまま放置する場合は、直ちに自己融着テープなどで切口を完全に防水処理する必要がある。
- 8.
- 単心ケーブル一条を鉄筋入りヒューム管内布設やスチールバンド止めなどをすると、鉄の温度上昇が起りケーブルを劣化させるので避ける必要がある。
電線・ケーブルの選定の際の検討事項
(1)使用温度条件
使用温度が常温か、低温か、高温かによって耐寒性、耐熱性の程度を考慮する。
表5.ケーブルの選定
使用環境温度 |
---|
−15℃〜60℃ 一般PVCシース |
−15℃〜75℃ 耐熱PVCシース |
−30℃〜60℃ 耐寒PVCシース |
−50℃〜75℃ PEシース |
(2)使用雰囲気
耐薬品性、耐油性、耐水性、耐圧性、耐ガス性、耐炎性、耐爆性の程度を考慮する。
薬品に接触する場合 |
---|
メタシールケーブル、MAZEケーブル |
難燃性 |
---|
難燃:難燃PVCシース |
難燃・低塩酸:難燃低塩酸PVCシース |
高難燃ノンハロゲン:ナンネンクリーンケーブル |
難燃性種別 | |||
---|---|---|---|
①高難燃 | ②難燃 | ③難燃無し | |
該当ケーブル例 |
|
|
|
要求特性例 | 垂直トレイ燃焼試験 | 傾斜試験 | - |
規格例 | JIS C 3521-1986 (IEEE Std. 383-1974) |
JIS C 3005-2000 | - |
難燃性順位 | ① > ② > ③ |
(3)配線(布設)方法
機器内配線、機器口出し、屋内配線、架空線、直埋、吊り下げ配線など配線(布設)、方式の適否を検討する。
(4)使用方法
固定使用か移動または屈曲、捻回して使用するか、移動、屈曲、捻回の程度、頻度、期間などについて適否を検討する。
振動、衝撃、伸縮、圧縮、張力等の外力の程度、頻度、期間について検討する。
(5)工事方法上の制約
運搬、足場、電源、火気、工具、工期、工程、などの状況、作業者の熟練度、接続、末端処理の有無および難易について電線の取り扱い性を検討する。
(6)電圧
回路電圧、電圧の変動、異常電圧、交直の別等を考慮して電線の定格電圧(公称電圧)を定める。
(7)電流、電圧降下
平常電流、事故電流、負荷率、過負荷の程度、許容電圧降下と使用条件等と許容電流とから導体サイズを定める。この場合単心ケーブルを多条使用するか多心ケーブルを使用するか併せて検討する。
(8)線心数
許容電流、誘導、電線の太さ、端子板、接続の有無、コネクタ等を考慮して線心数を定める。
(9)回路、回線方式
回路、回路方式の必要性より絶縁抵抗、高周波特性、伝送特性の程度を定め、絶縁材料、電線の構造を選ぶ。
(10)誘導、漏話
しゃへい(静電、電磁)方式は要求度、接地系の程度より定め最適なしゃへい構造(テープしゃへい、編組しゃへい、アルミ被など)を選ぶ。
(11)法規
法規上の制限について検討する。
(12)経済性
フジクラ社技術資料より参考