腐食環境におかれた金属に、繰り返し応力を加えたときに起こる破壊現象で、応力腐食割れと同様に、応力または腐食の単独の作用では起きません。両者の共同作用で、はじめて破壊現象を起こします。
金属の疲労とは何かを考えてみましょう。いま、一本の針金を例にとると、これを曲げたり、真っ直ぐに伸ばしたり、同じことを何回も繰り返しますと、針金はやがて破断します。これは、何回も受ける曲げ応力によって、金属が疲労して破壊したのです。
世の中には、このような繰り返し応力を受けるものが沢山あります。鉄橋は、列車が通過するたびに応力を受けますし、海洋構築物などの橋脚は、波が打ち寄せるたびに、大きな応力を周期的に受けます。大型ジェット機などの圧力壁は、上空へ飛び立つたびに、機内と機外の圧力差による応力を受けます。また、このような金属の疲労は、空気中でも、真空中でも、水中でも起きます。
そこで、金属に加わる応力の強さと、その繰り返し回数が、金属の破壊にどのような影響を与えるかを調べた結果によりますと、加えられた応力の強さが、ある限界を超えると僅かな繰り返し回数で、破壊に至ります。この応力の強さの限界を「疲労限」といっております。加えられる応力が疲労限界以下では、繰り返し回数が多くても、金属は破壊しません。このことは、繰り返し応力をうける機械や装置などの設計上、非常に重要な指標になっております。
ところが、金属に繰り返し応力が加わると同時に、環境の腐食作用が加わると、疲労限以下の応力でも破壊が起こります。まず、同じ強さの繰返し応力が加わる場合、破断に至る繰り返し回数が小さくなります。つぎに、疲労限がなくなるということです。言い換えれば、加わる繰り返し応力の大きさが小さくても、十分な繰り返し回数を与えると破壊するということです。これを「腐食疲労」といっています。
海洋構築物では、材料の腐食疲労特性を考慮した設計をすることが不可欠ですが、通常使われる材料の殆どが鋼材であります。鋼材の腐食疲労特性を改善すること非常に困難であります。疲労だけであれば、疲労限の高い材料を使えばよいのですが、腐食疲労では、耐食性も向上させなければなりません。材質的にこれを改善することは不可能ではありませんが、可能なのはごく限られた範囲だけです。 そこで、まず、形状的に応力の集中しやすいところを極力なくし、集中してもその部分の応力が小さくなるように設計することが重要です。さらに、海洋構築物などの主要な脚柱の周辺に細い鋼管などを沢山打ち込んで本体と溶接し、犠牲的にこれらに腐食疲労を起させる対策をとっているようです。また、後述する電気防食法なども採用されているようです。 |