文字通り、孔があいたように、間口の大きさのわりに深い腐食を孔食といいます。これは炭素鋼、低合金鋼、銅合金、ステンレス鋼、アルミニウム合金などに生じますが、よく知られているのがステンレス鋼やアルミニウム合金などのように、耐食性の高い不動態皮膜を生成するといわれている金属に発生する孔食です。
孔食は、局部腐食が金属の内面に向かって孔状に進行する腐食で、まばらに発生することもありますが、無数に発生することもあります。ステンレス鋼のように不動態皮膜で覆われた表面では、孔食以外の部分は、光沢のある光った状態にあります。
【図1】にステンレス鋼に発生した孔食断面の模式図を示します。ステンレス鋼は、他の多くの金属の中では、貴の電位を示しますが、これはステンレス鋼の表面に不動態皮膜があるからであるということは前回述べました。
もしいま、塩素イオンの存在によって不動態皮膜の一部が破壊されたとしますと、その部分は本来卑な電位をもっているためマイナス、周囲の不動態皮膜が存在する部分がプラスとする電池が形成されます。プラスの部分の面積は、マイナスの部分よりはるかに大きいので腐食作用は進行します。
このように孔食は電池作用によって進行します。腐食電流はマイナス極である不動態皮膜破壊部から水中に流れ出し、この中を通って、まわりのプラス極へいきます。電流が水中を流れるのは電子が動くのではなく、溶解しているイオンが動くからであります。電池においては、陰イオンがマイナス極へ、陽イオンがプラス極へと動くことによって電流の流れをつくります。
ステンレス鋼に孔食ができるのは、塩素イオン(CL-)が存在するときであり、環境中での電流の流れに塩素イオンが一役買っています。塩素イオンは陰イオンでありますから、孔食部分に集まってきますとその部分の塩素濃度が高くなり、穴の中に蓄積します。これによりpHが低下し、金属の溶出を助けます。孔食の進行に伴ってステンレス鋼から溶け出した金属イオンは水中で加水分解しますが、このとき水素イオンを生成するからです。
水素イオンH+や塩素イオンCL-の蓄積は、腐食が進行中の孔の中で起きますから、外の環境中へはなかなか逃げてはいきません。こうして孔食が生成したところは何時までも腐食を続けることになります。