日本で設計製作された金型を、他の国や地域へ輸出して使用する場合には、いくつか考慮しておかねばならない事項があります。
日本で設計製作される金型のほとんどは、日本の工業標準規格(JIS)や日本製のデファクトスタンダード標準部品(事実上の業界標準部品)が使用されています。
外国ではこれらの標準規格がそのまま応用できるとは限りません。JIS規格とISO規格がかならずしも整合性が取れているとは言い切れません。
特に、アメリカ合衆国は、長さの単位がメートル系ではなくインチ系を採用している場合が圧倒的に多いので、ねじ規格や工具規格などでは特に注意が必要です。
現地で金型の補修やメンテナンスを考慮する際には、どちらの規格を優先すべきかを慎重に検討する必要があります。
また、電力事情が各国で異なりますので、射出成形機の電圧変動によっても成形条件が微妙に変化することもあります。
冷却水の水質もそれぞれの国で事情がまちまちです。水質によって硬水と軟水がありますので、金型の冷却孔の内部に付着するスケールの状況も異なってきます。スケールが付着しやすい国では、冷却孔のメンテナンスやスケール付着防止剤などを考慮します。
航空機で金型を空輸する場合には、上空の気温はマイナス50℃ぐらいまで低下しますので、地上へ降りた際には結露が発生します。結露により金型の心臓部が錆びないようにグリースや防錆剤を適切に付与しなければなりません。
また、グリース等をふき取るために、金型を分解清掃するときに、金型の組み込み間違いを起こさないようにフールプルーフ構造を採用したり、現地語で記述した金型組み立て図も準備することが重要です。
また、標準部品や破損しやすい部品については、あらかじめスペアパーツを準備しておくこともリスクヘッジのためには重要です。現地でスペアパーツを製作するのには、思いのほか時間を要する例が多いものです。