食品衛生法改正の概要まるわかり
全4回の連載では、HACCPのポイント等もご紹介予定 お見逃しなく!
第1回 食品衛生法改正のポイントとは?(全4回)
食品に関する安全を確保するための法律で昭和22年にはじめて公布されました。食品に携わる以上切っても切れないものであり、日本国内において食品を製造、販売する際にはこの法律を遵守する必要があります。
平成30年(2018年)6月に15年ぶり改正が行われ、令和3年(2021年)6月に施行されました。
今回の改正の背景には世情の変化が挙げられます。例えば、共働き世代が増えたことにより内食から外食へ変化をしていること、食中毒事件件数の下げ止まり、業態の変化、国際社会への対応等々です。また、先進7か国の中で日本はHACCP法制化に対して遅れをとっており、急がれたのではないかと考えられます。
よく「罰則はないんでしょ?」という質問を受けます。今回の法改正で罰則規定に変更がないだけで従来通り罰則はあります。
衛生管理の実施状況に不備がある場合、まずは口頭や書面での改善指導が行われます。もちろん衛生管理計画の作成不備やそもそも作成されていない場合も対象です。改善が図られない場合、営業の禁停止等の行政処分、さらにそれにも従わない場合懲役または罰金刑に処される可能性もあります。日本の食品衛生管理そのものの考え方の根本が変わってそれを元に食品衛生監視がされるということです。
厚生労働省から発表されている概要7点を解説します。
④まとめと次回予告
ここまで食品衛生法改正の概要を大まかにお伝えしてきましたが今回の法改正のねらいは大きく2つあって1つが国内需要の縮小により輸出推進を今後さらに進めること2つめに従来は自治体の食品衛生監視員の解釈の違いで事業者負担が大きかったことから食品衛生監視員の平準化を計ることがねらいにあると考えています。
次回はそもそもHACCPとは何なのか、今回義務化されたHACCPがなぜ日本で義務化されたのか、HACCPに対する大きな誤解、ではどういうことをしていけば良いのかを解説する予定です。
第2回 HACCPとは?よくある誤解を解消
そもそもHACCPとはいったい何か?という点を解説します。
危害要因分析重要管理点(Hazard Analysis Critical Control Point)の頭文字をとって“ハサップ”といいます。
現在のHACCPの原型となるものはアメリカ航空宇宙局(NASA)で宇宙食を作るための衛生管理手法として考えられました。後に国連の世界保健機関(WHO)と国連食糧農業機関(FAO)の合同で設立されたコーデックス委員会から国際規格として発表されました。現在188の国と1つの欧州連合が加盟しており各専門部会が設けられ、積極的議論が世界中で行われています。
今回法改正された食品衛生法も多くの第三者認証も厚労省が作成し、大量調理施設で活用されている「大量調理施設衛生管理マニュアル※1」もこれがベースとなっています。
今までの食品衛生管理では、原料入荷から商品を製造して最終製品として出来上がったものに対して検査をして出荷をしていました。一方でHACCPにおいては、危害要因(ハザード)をあらかじめ定めておき、製造工程の原料入荷から最終製品の出荷までの各ポイントにおいて、都度基準を満たしているかどうかを確認し、その危害を予防するための管理手段を定め、それを逸脱していれば対策し、その都度見直していくという衛生管理方法の一つです。
※1大量調理施設衛生管理マニュアル
扱う食品や事業規模に応じて「HACCPに基づいた衛生管理」と「HACCPの考えを取り入れた衛生管理」とに分けられています。基本的に公衆衛生に与える影響の少ない営業を除き全食品等事業者はいずれかを選択することとなりますが、農業及び水産業など食品の採取はHACCPに沿った衛生管理の制度化の対象外となります。
各ポイントを以下に簡単にまとめました。
■1「HACCPに基づく衛生管理」
コーデックス委員会の定めたガイドラインの12手順7原則を厳守
- 大規模事業者(製造に従事する者が50名以上)
- と畜場[と畜場設置者、と畜場管理者、と畜業者]
- 食鳥処理場[食鳥処理業者(認定小規模食鳥処理業者を除く。)]
■2「HACCPの考えを取り入れた衛生管理」
各業界団体が作成し、厚労省の専門委員会で承認を受けた手引書を参考にして衛生管理を行う。
合致するものがない場合は近しい業種の手引書を利用することも可能。
- 多品種多品目製造
- 食品製造、加工する施設に併設又は隣接した店舗においての小売販売
- 飲食店営業
- 容器包装食品の貯蔵、運搬する営業者
- 食品を小分けして販売する営業者
- 食品製造業のうち食品の取り扱いに従事する人数が50名未満の事業所
ただし、「HACCPの考えを取り入れた衛生管理」対象の事業者でも「HACCPに基づいた衛生管理」や輸出対応ができるHACCP+α(詳細は次回以降解説)へのステップアップは可能としています。
⑤まとめと次回予告
今回はHACCPがそもそもどういうことから始まったのか、法制化されたといっても何から始めてよいのか、よくありがちな誤解を解説しました。ここまでご覧いただき、混乱することもあると思いますがとにかくシンプルにすることを心がけて衛生管理計画は作成してみてください。 HACCPはワンチームで行うものです。そして多くの過去の食品事故はいつもと違うことが起こった時に発生しています。
そのため、どんな些細なことでも上司に言いやすい社内の風潮づくりが大事です。作業者が「あれ?いつもと少し違うな」という何気ない異変を気軽に上司に伝えられる環境があることで事故を未然に防ぐことができます。
今回は基本的なHACCPについて話をしました。次回はHACCP+αへのステップアップ手順や、皆さまが気になっている「グローバル認証」について、現状と今後のお話をしていく予定です。
執筆 食品衛生ビジネス・コンサルティング(株)大野真梨子
※食品関連法規制への準拠状況につきまして、詳しくは各商品ページをご確認ください
第3回 輸出に向けた準備と第三者認証
今回は、少子高齢化が進み国内需要が減少傾向にある日本の食産業の行く末について考えてみたいと思います。日本の食産業を支えるひとつの柱として期待されているのは「海外輸出」です。海外市場では日本産の食品や食材が注目されており、和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたことからさらに注目を集めています。今回は「海外輸出」の現状から対応方法までを簡単にご紹介していきます。
日本全体の農林水産物・食品の輸出額は2019年には9,121億、2021年には1兆2,382億となり、2022年11月までの速報値では1兆2,433億と前年実績を上回りました。(図1)さらに「食料・農業・農村基本計画 」及び「 経済財政運営と改革の基本方針2020 」に於いて2025年までに輸出目標額を2兆円、2030年までに5兆円と設定しました。
(図1)
出典:農林水産省 輸出・国際局「2022年 11 月 農林水産物・食品の輸出額 農林水産物・食品の輸出に関する統計情報」P.2 令和4年11月
これまでの輸出事業は、生産者が国内市場向けに生産した商品の余剰品を輸出できる国だけに輸出するビジネスモデルが主流でした。海外現地での販路も、現地が要求するスペック( 量・価格・品質 ・規格)で継続的に提供できなければ一般小売はできないため、日本の農林水産物・食品を積極的に求める日系・アジア系の小売店・外食等に限定されているのが実態でした。さらに、輸出先国の衛生検疫規制や規格基準に合わない商品は輸入相手国へ受け入れられないため、潜在的なニーズはあっても多くの日本産食品が輸出できていません。 特に欧州や米国においては顕著です。(図2)
(図2)
出典:農林水産省 輸出・国際局「2022年 11 月 農林水産物・食品の輸出額 農林水産物・食品の輸出に関する統計情報」P.2 令和4年11月
世界の農林水産物・食品市場が拡大する中で、輸出需要に対するポテンシャルは高いものの、こうした壁を打破し海外市場に対して新たな開拓方法を模索しなければ海外市場に浸透することは困難です。したがって、今後、日本の農林水産物・食品の輸出拡大を加速する上で最も必要なことは、海外市場で求められるスペック、衛生検疫規制や規格基準に適合する日本産食品を生産・輸出し、・流通する体制の整備が必要です。そのため「農林水産物及び食品の輸出の促進に関する法律」(通称:輸出推進法)に基づき、輸出推進が進められています。輸出向け食品を製造する企業へ補助金制度や融資の制度もあります。
<参考>
食品産業の輸出向けHACCP等対応施設整備事業
日本政策金融公庫による農林水産物・食品輸出基盤強化資金貸付制度
コーデックス規格に沿った製品を製造することにより、HACCPが義務化されている欧米、アメリカ等では法令上輸入は可能になります。すなわち日本の食品衛生法上「HACCPに基づいた衛生管理」+α(※1)で管理していれば可能ということになります。しかしこれはあくまで最低条件です。輸入受け入れ国の法令上可能でも現地バイヤーが購入するかしないかはまた別の問題です。(図3)
(図3)
出典:農林水産省 農林水産省 北海道農政事務所 橋本陽子著 文献名GAPの価値を共有するフードチェーン連携パートナー会IN北海道(H31.2.13)資料~国際的な食品安全規格(GAP・HACCP)・輸出にチャレンジ~国際的な規格・認証(GAP・HACCP)と輸出促進について」平成31年2月 P.14~15
HACCPは良い意味でも悪い意味でも柔軟性がありすぎるため、各国基準が統一されていないという問題点がありました。
そこで、世界的な業界ネットワークである世界食品安全イニシアチブ(GFSI)が設立されました。また、多くの規格が存在しており、どの規格が国際基準として通用するのか不明確でした。そこでGFSIのガイダンス基準に合う第三者認証をGFSIベンチマーキングスキームとして設定しました。すなわち「GFSIベンチマークの認証を取得していれば世界のどこでも受け入れられる」というのが国際的な考え方です。海外市場に新たに商流を開拓し、浸透させるためにはGFSIベンチ―マークの第三者認証を取得することがグローバルスタンダードと言えます。
〔注釈〕
※1:食品添加物や残留農薬等各国輸入規制については日本貿易振興機構(JETRO)ウェブページを参照
現在、様々な第三者認証の名前があちこちで聞かれるようになりました。(ただし、厚生労働省は「食品衛生法改正によるHACCP法制化に伴う認証取得は求めないこととする」と食品衛生法改正Q&Aで言及されています)
第三者認証の取得は輸出を推進する上でもメリットがあります。他にも、各自治体の食品衛生監視員の監査も、コーデックスの要求事項を満たす各第三者認証については「HACCPに基づいた衛生管理」の要件を満たしているものと考え、立ち入り検査等の際に考慮することとしています。そうは言っても様々な第三者認証があり、どういう基準で取得の是非の判断をすれば良いのかわからないという課題もあるのではないでしょうか。判断材料の一つとして重要な点は、「コーデックスの要求事項を満たしている認証なのか」ということです。よく聞かれる第三者認証の特徴について少しご紹介させていただきます。
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<FSSC22000>
オランダの食品安全認証財団でGFSIのベンチマークのひとつ。ISO22000がベースとなっている。HACCPが製造現場の食品安全規格なのに対し、これは工場全体の食品安全規格で間接的にかかわる事業者も含まれる
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<ISO22000>
ISO9001とHACCPを組み合わせたようなもの。各組織で柔軟に対応できるためGFSIのベンチマークとはなっていない。ただ食品衛生法におけるコーデックスHACCPの要件を満たすとはされている
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<自治体HACCP>
法改正により各自治体継続しているもの、廃止しているものもあり状況は様々。例として東京都の食品衛生自主管理制度は主に飲食店向けの認証制度で法改正により各業界団体が作成した手引書を利用して今後は衛生管理をしていくため、混乱を避けるため廃止となった
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<総合衛生管理製造過程(マル総)>
法改正前までは唯一の公的なHACCP認証制度でしたが法改正により廃止
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<JFSM>
日本初の国際的食品安全マネジメント規格。JFS-AからCまであり、JFS-C規格はGFSIベンチマークになっている。段階的にレベル向上が目指せること、日本の食文化に合わせやすいことが特徴。国も段階的にステップアップを推奨しており、JFS-A規格は「HACCPの考えを取り入れた衛生管理」JFS-Bは「HACCPに基づいた衛生管理」と整合性を取ると言及されています(図4)
(図4)
出典:農林水産省 FOODEX JAPAN2020 JFSMセミナー 食品産業の海外展開戦略 令和2年3月 P.27~28
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<SQF>
オーストラリアの政府機関によって策定されたSQF(Safe Quality Food)は、2003年に米国・食品マーケティング協会(FMI)の所有するところとなった。SQFインスティテテュート(SQFI)によって運営されている。 SQFレベル2以上が、GFSIベンチマーク。
〔注釈〕
※2GFSIベンチマーク。それ以外に日本において認知度が高いものにASIA GAP、 GLOBAL GAPがある
農林水産省令和3年食品製造業におけるHACCPに沿った衛生管理の導入実態調査によると取得している事業者が一番多い第三者認証は「自治体HACCP」、その次に「FSSC22000」という結果でした。(図5)
(図5)
出典:農林水産省 「令和3年度食品製造業におけるHACCPに沿った衛生管理の導入状況実態調査結果」 令和4年6月28日
JFS規格の取得事業者も少しずつ増加しています。まず認証取得は必須ではないですが今後の事業展開を検討する中で第三者認証を選択する際はコーデックス規格に準拠したものかどうか、その次に輸出を見据えた際にGFSIベンチマークであるかどうかを視野に検討してみてはいかがでしょうか 。
④まとめ
第三者認証の取得はあくまでもこれからの販路拡大や自社の安全性を客観的に外部に示す方法の一つにほかなりません。
取ることが目的になってしまい、全社でそれを維持できなければ食品事故は起こり得ます「取る」だけではなく「維持、継続」することが何よりも重要なのです。
執筆 食品衛生ビジネス・コンサルティング(株)大野真梨子
※食品関連法規制への準拠状況につきまして、詳しくは各商品ページをご確認ください
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1広域的な食中毒事案への対策強化
広域的な食中毒事件が発生した場合、国や都道府県等で連携し、被害の拡大を防ぐことを目的としています。
今までは各地で同一感染源での食中毒事件が発生していても全国で把握がされておらず、対応の遅れにより被害が拡大することが問題となっていました。今後こういったことを防止する観点から自治体で食中毒が発生した場合、迅速に情報を共有し、事態が深刻に及ぶと考えられる場合は必要に応じて厚生労働大臣が関係者で構成する広域連携協議会を設置して対応することとしています。