腐食・防食
- エロージョンとは、機械的に起こる磨耗作用のことで、コロージョンとは、腐食のことです。直訳すると、「磨耗的腐食」ということになります。 配管中を流れる水のように、腐食環境が流動していると、配管内面をこすることになり、流速が低ければ磨耗は起きませんが、流速が高ければ磨耗します。また、流体中に粉体など固体を含む場合には、激しく表面をこすり、機械的磨耗が生じます。 炭素鋼について考えますと、炭素鋼は水や水溶液中で腐食しやすく、腐食すると、表面に錆びが発生します。この錆びは、ステンレス鋼のように、これ以上の錆びの進行を阻止するほどの耐食性はありませんが、錆びが全くない状態に比べると、腐食速度を大幅に低減できます。 しかし、このような状態のときに、流体による磨耗作用が働けば、その腐食生成物は削りとられることになり、新たな炭素鋼の表面が出現します。これに、水中に溶存している酸素が働けば腐食は当然促進されます。つまり、エロージョンによって錆びが取り除かれ、コロージョンによって錆びが発生じるという複合的な作用によって、いずれか一方の作用だけのときよりも、はるかに腐食速度は大きいものになります。
- 腐食環境におかれた金属に、繰り返し応力を加えたときに起こる破壊現象で、応力腐食割れと同様に、応力または腐食の単独の作用では起きません。両者の共同作用で、はじめて破壊現象を起こします。 金属の疲労とは何かを考えてみましょう。いま、一本の針金を例にとると、これを曲げたり、真っ直ぐに伸ばしたり、同じことを何回も繰り返しますと、針金はやがて破断します。これは、何回も受ける曲げ応力によって、金属が疲労して破壊したのです。 世の中には、このような繰り返し応力を受けるものが沢山あります。鉄橋は、列車が通過するたびに応力を受けますし、海洋構築物などの橋脚は、波が打ち寄せるたびに、大きな応力を周期的に受けます。大型ジェット機などの圧力壁は、上空へ飛び立つたびに、機内と機外の圧力差による応力を受けます。また、このような金属の疲労は、空気中でも、真空中でも、水中でも起きます。タグ:
- 金属の引っ張り試験のように、金属試験片の両端を引っ張るとやがて破断します。これを引っ張り強さといいますが、ある環境中において、この引っ張り強さ以下の応力でも、それが加わった状態が持続すると、やがて金属に割れが生じます。この腐食現象を応力腐食割れといっています。応力腐食割れを起す応力は引っ張り応力で、使用中にかかる応力と加工時に生じた内部応力とがあります。 【図1】に応力腐食割れの模式図を示しました。金属材料表面上に腐食点が生じた腐食が穏やかに進行します。この材料に金属内部の引っ張り応力か、引っ張り外部応力が付加され、腐食先端部と割れ先端部は鋭利であり、進行方向は屈曲します。この割れには、結晶粒界と結晶内の割れがあります。タグ:
- 一般の金属は、多くの結晶が集まってできています。結晶粒子と結晶粒子が接する境界にあたる面を結晶粒界(略して粒界)といいます。数多い結晶粒子内では、それぞれ原子が整然と並んでいますが、隣接する結晶粒子とは原子の配列の方向が違います。したがって、これらをつなぐ粒界の原子は、どちらの原子とも整合しなければならないので、その並び方は乱れています。つまり、エネルギー状態が高い状態にあるといえます。 このことは、結晶組織を観察するための顕微鏡観察試料を、適切な腐食液でエッチングすると、粒界が溶解されて、一つ一つの結晶粒子がよく見えるようになることからも、粒界のエネルギー状態が高いことが理解できます。 このような化学的な腐食は、表層に留まり、これ以上進みませんが、ある種の条件下で加熱されると、結晶粒界の化学組成に変化を起こし、腐食環境の中で、選択的な腐食が発生します。SUS304のようなオーステナイト系ステンレス鋼にこのような現象がみられます。その理由は次のとおりです。 ステンレス鋼が錆びにくいのは、表面に不動態皮膜が生成されるためであり、そのためにはクロムの存在が不可欠です。ステンレス鋼には通常12〜13%以上のクロムが必要であるといわれていますが、粒界腐食で問題となるのは鋼中の炭素の量です。タグ:
- すき間腐食は、鉄鋼その他各種金属に生じますが、ステンレス鋼、アルミニウム合金、チタンなど不動態皮膜を形成する金属にも生じます。 金属材料を使った構築物は、部材の同じ金属同士の重ね合わせ部、異種金属の重ね合わせ部、金属と非金属との重ね合わせ部などの接合部、スケール・腐食生成物・異物等の付着物下と素地のすき間部、コーティング膜や剥離下のすき間など多くのすき間があります。 ここでいうすき間とは、日常会話に登場するすき間とは違い、非常に小さなすき間で、1/100ミリ程度のものを指しています。このようなすき間にも水などの液体は侵入します。そして、一旦侵入した液体は外部とほとんど交換されませんので、その酸素濃度は他の部分より低くなり、酸素の濃淡による酸素濃淡電池(通気差電池)が形成され、酸素濃度の低いすき間部が腐食されます。【図1】に、金属板上の付着物によるすき間部形成例を示しました。タグ:
- 文字通り、孔があいたように、間口の大きさのわりに深い腐食を孔食といいます。これは炭素鋼、低合金鋼、銅合金、ステンレス鋼、アルミニウム合金などに生じますが、よく知られているのがステンレス鋼やアルミニウム合金などのように、耐食性の高い不動態皮膜を生成するといわれている金属に発生する孔食です。 孔食は、局部腐食が金属の内面に向かって孔状に進行する腐食で、まばらに発生することもありますが、無数に発生することもあります。ステンレス鋼のように不動態皮膜で覆われた表面では、孔食以外の部分は、光沢のある光った状態にあります。 【図1】にステンレス鋼に発生した孔食断面の模式図を示します。ステンレス鋼は、他の多くの金属の中では、貴の電位を示しますが、これはステンレス鋼の表面に不動態皮膜があるからであるということは前回述べました。 もしいま、塩素イオンの存在によって不動態皮膜の一部が破壊されたとしますと、その部分は本来卑な電位をもっているためマイナス、周囲の不動態皮膜が存在する部分がプラスとする電池が形成されます。プラスの部分の面積は、マイナスの部分よりはるかに大きいので腐食作用は進行します。タグ:
- 通気差腐食は、水中の酸素濃度の差によって起こる腐食で、通気差電池を形成した環境で、起きる腐食です。 実験例として、【図1】に示すように、素焼きなどの隔膜で仕切られたガラス容器に3%食塩水を満たし、それに研磨した鉄板2枚を電線でつないで、それぞれの容器に浸漬します。ガラス管で、一方の鉄板には空気を、他方の鉄板には窒素ガスを吹き込みます。暫らくすると、窒素を吹き込んだ鉄板が腐食します。容器を隔膜で仕切るのは、両方の液が混じらないようにするためと、電流は流れるようにしたいためです。 この腐食は、空気を吹き込んだほうの鉄板は、次のような溶存酸素の還元反応を受け持ち、窒素ガスを吹き込んだほうの鉄板は溶解を起すという、通気差電池の形成によって起きています。タグ:
- 3%の食塩水の中に、各種金属を単独で浸したとします。そのとき、比較電極を浸して、比較電極と浸した金属との電位を測定すると、それぞれ異なった電位を示します。この電位を高い順に並べると、一つの系列ができます。 いま、この系列の中からA、B、2つの金属を選択して、その電位を比較すると、AのほうがBより電位が高い場合には、AはBより貴であるといいます。逆の場合は、AはBより卑であるといいます。 いま、【図1】に示すようにA、B2つの金属片を3%食塩水溶液に浸し、AB両金属を接触させると、やがて、B金属が腐食されます。 これは液中で電池が形成されて、Aがプラス極、Bがマイナス極となり、AからBへ電流が流れ、Bから液中へ流れて、Aに戻るという回路ができるからです。腐食は電流が金属から環境に流れ出るところで生じます。すなわちAとBのうち、卑な金属Bが腐食することになります。海水中での電位の順を【表1】に示しました。 【表】から分かるように、海水中では、炭素鋼は銅やステンレス鋼など、炭素鋼に対して貴な金属と接触すると腐食が促進されます。タグ:
- 局部腐食は、全面腐食と並んで、腐食の形態を示す用語で、文字通り金属が局部的に侵食される腐食をいいます。その原因としては、(1)金属の組成や組織が不均一である。(2)腐食環境が不均一であることなどが考えられています。 金属が不均一の場合の代表例として、「異種金属接触腐食」があります。例えば鋼板に銅の小片を乗せて、腐食環境に置きますと、銅と接触している部分の鋼板に腐食が集中し、銅はほとんど腐食しないという局部腐食が起きます。 また、溶接した鋼を水中に浸漬しておくと、溶接部に腐食がおきます。これは、溶接によって、母材部分と溶接部分の化学成分や金属組織が違ってしまったことから起きる現象と考えられます。これも一種の異種金属接触腐食ですが、異種金属をとくに使用していないことから、「溶接部の選択腐食」とよんでいます。タグ:
- 通常、社会的に金属の腐食が問題になるのは、酸やアルカリという厳しい環境ではなく、人間が生存可能な空気中の水分(湿度)、気温、稀に腐食性ガス、浮遊する塵芥や、溶存酸素、消毒用の遊離塩素、Ca・Mgなどの水中含有物質によることが多いのです。 金属腐食の一般論として、腐食環境と腐食形態について考えてみましょう。いま、研磨した金属を腐食環境に投入すると、金属の種類と腐食環境の種類により、金属表面には次のような変化が現れます。 (1)表面に変化なし これはその環境内で、表面に全く腐食生成物ができないか、もしあったとしてもナノメーター単位の非常に薄い吸着層で、腐食はこれ以上進みません。 (2)変色するがそれ以上進まない これは腐食生成物がある程度厚くなったために肉眼で見分けられるようになったためで、それが緻密に表面を覆っているため、腐食の進行はこれ以上進みません。このような変色は、皮膜が数十ナノメーターの厚さになったためです。タグ:
- 金属の腐食・防食 今回から、金属の腐食・防食について考えてみましょう。 金属は、空気中や水中・地中でよく腐食して漏水・ガス漏れ事故を起したり、公園の遊具などの構築物が倒壊して人身事故を起したりすることはよく知られています。 また、事故に至らなくても、宝飾品のネックレスなどが錆びたとか、マンションのステンレス製の手すりが錆びたなど、美観を悪化させる事件は枚挙にいとまがありません。 しかし、もともと金属は、鉱山の地中に化学的に安定な酸化物や硫化物の形で眠っていたものを採掘し、純度の高い金属に精錬したものですから、溶存酸素や塩素イオンの多い水中や、21容量%の酸素や湿度の多い空気中に長時間曝されると、もとの安定な形に戻ろうとするのは当然です。このようなことを防止し、初期の機能を維持するために合金化や、防食めっき・防食塗装が施されます。 (1)金属の活性系列 いま、各種金属の錆び易さ、錆びにくさを考えてみましょう。 金属と酸との反応を考えてみると、水素よりイオン化エネルギーの低い金属は、酸と反応して水素を発生します。そこで、金属を水素と関連させて、その活性の程度を順に並べたものを、金属の活性系列と呼びます。【表1】に示しました。タグ: